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週刊エコノミスト Online 学者が斬る・視点争点

新事業創造を担う二つの定石=藤原雅俊

 新事業の確立を目指す企業にとって、強い内発的動機を持つ社員の主体的な推進と、想定顧客を絞って鮮明にニーズを把握する所作が鍵となる。

強い動機を持つ個人の存在+顧客像の絞り込みと事業拡大策の立案

 新事業創造は、いつの時代も企業を悩ませる大きな経営課題である。単一事業に特化して発展を遂げる企業はあるものの、多くの企業が次世代を支える新事業を創造することによって自社を長期的に発展させる道を模索している。

 だが、言うまでもなく新事業創造は決して一筋縄でいく取り組みではない。既に見えている市場への新規参入は激しい競争に身を投じることを意味する一方で、まだよく見えていない市場への展開は、その不透明さゆえに資源の先行投入に対する多くの疑念や抵抗を招く。それが何らかのイノベーションを伴う活動となれば、不確実性はいっそう高まり、その推進はなおのこと難しくなる。加えて昨今は、なかなか収益化しづらい社会課題の解決が経営課題として掲げられるようにもなっており、その難易度に拍車がかかっている。

 こうしたさまざまな難しさをはらむ新事業を創造する際の要諦については、数多くの論点がある。その中で筆者が特に強調したいのは次の2点だ。これらは当たり前のように見えるかもしれないが、意外に看過されていると感じる点である。

イノベーターがけん引

 第一に、新事業の検討や推進は人事異動で突然誰かに割り当てる性質のものではない。本来的には、この事業を創りたいという強い内発的動機を持った社員がアイデアを磨き、仲間を集めながら力強く推進する類いのものである。

 これまで筆者が調査・発表してきた新事業創造事例からも、こうした内発的な動機を持つイノベーターが果たす役割の大きさを確認することができる。例えば、海水から飲み水を得るために用いられる特殊な半透膜である逆浸透膜を日本で開発し、今なお事業展開している企業は、東レ、東洋紡、日東電工の3社である。その長きにわたる開発史をひもとくと、各社において強いイノベーターがそれぞれに存在し、開発・事業化活動を支えていた。

 他にも、静岡県に拠点を構え、大型鋳物を得意としてきた木村鋳造所が2010年代に3Dプリンター技術を活用して小型鋳物事業を新たに興した過程でも、その技術にほれ込んだイノベーターが熱心に周囲を巻き込みながら、その活動を進めていた。「とにかく燃えていた」と語ってくれた言葉が強く印象に残っている。似た事例は枚挙にいとまがない。

 強い内発的動機を持つ社員による主体的推進の重要性を筆者が真っ先に挙げるのは、製品にせよサービスにせよ、新たな開発を進めて事業を興す過程では、技術的…

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