現役チベット人作家10人の幻想的な短編13作=加藤 徹
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近現代の激動を生きるチベット人の心象風景を読む
チベットというと、中国に対して「高度な自治」を求め続けるダライ・ラマ14世が有名だが、ふつうのチベット人は自分たちの歴史や文化をどのようにとらえているのか。星泉・三浦順子・海老原志穂編訳『チベット幻想奇譚』(春陽堂書店、2640円)は、近現代の激動を生きるチベット人の心象風景を、彼らの「肉声」を通じて伝える珠玉の短編小説集だ。1960年代から90年代生まれまでの現役のチベット人作家10人の作品を収録する。いずれも「人々の現実社会に対する不安やそれに端を発する狂気に独特のまなざしを向けた作品」であり、「本書に収録された多様な作品をきっかけに、チベットの歴史や文化、そして彼らがくぐり抜けてきた激動の現代史に思いをはせていただければ幸いです」。
例えば「三代の夢」は、日本や欧米各国でも翻訳が出ているタクブンジャの初期の代表作だ。近現代のチベット人一家3世代の運命を描く。初代のグルゴン・ラヤクは、山村に住む人妻が山の神と交わって生まれた民話的な英雄だ。
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週刊エコノミスト
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