週刊エコノミスト Online学者が斬る・視点争点

テレワークの果実を得るにはオンライン空間の整備から=江夏幾多郎

濃密なオンラインの意思疎通目指す

 テレワークは「どうやるか」にかかっている。企業価値創出のため、オンラインコミュニケーションの可能性を捉え直すことが鍵となる。

オンライン上の「場」への「慣れ」こそが鍵

 新型コロナウイルス感染症が流行する中、日本でもテレワークが急速に広まった。所属企業の規模や業種・職種などによるばらつきはあるものの、およそ4分の1の就業者が、流行初期にはテレワークを実施していたことが、多くの調査で示された。しかしその広がりは欧米先進諸国と比べると限定的で、2020年夏以降の「揺り戻し」の動きも強かった。

 日本の企業や就業者の多くはテレワークをそれほどポジティブには受け取ってこなかったようだ。情報共有や連携が難しくなると受け取られやすい。その上、労務・業務管理ルールの見直し、作業空間の確保、デバイスの整備、情報セキュリティーの確保に対する負担感は強かった。コミュニケーションや生産性を理由に、一度導入したテレワークをやめた企業が多いことを示す調査もある(図)。

 しかしテレワークにより、一部の就業者は生活上のニーズが満たしやすくなる。また企業は業務プロセスを見直しやすくなる。企業側としてはテレワークを許容することで、社員の貢献がより大きなものになること、有能な就業者を獲得できるようになることを期待できる。そのためテレワークについて、「やるかやらないか」ではなく「どうやるか」を問いだしている企業も少なくない。

交換される“暗黙知”

 テレワークへの移行による最大の変化は、コミュニケーションがオンライン上でなされるようになることだろう。この変化は、テレワーク実施者だけでなく、彼らとやりとりする職場勤務者も経験する。テレワーク実施者よりはるかに多くの「オンラインコミュニケーション経験者」が存在する。

 メンバー間のコミュニケーションは企業の価値創出に直結する。そして、度々指摘されるテレワークに伴う不利益の多くは、オンラインコミュニケーションへの苦戦に由来する。オンラインコミュニケーションの利点を生かす理論と実践が求められている。

 コミュニケーションの際、人々は言語や論理の形で体系化された情報(いわゆる「形式知」)をやりとりしている。だが、やりとりされるのは体系化された情報だけではない。人々は、しばしば「暗黙知」と呼ばれる、感覚的・情緒的なものを周りに発信したり、周りから読み取ったりしている。

 同じ相手の同じ発声でも、対面とオンラインとでは印象が異なる。例えば、ビデオ会議やSNS(交流サイト)といったオンライン上で知り合い、後に対面した際に「出会い直した」という印象を持った人も多いだろう。発生された言語にまつわるさまざまな暗黙知の違いによる影響がそこにある。

 暗黙知の交換は、対面空間において活発になるとされてきた。自分や相手を物理的な身体として実感しやすいからだ。

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