円高を耐え抜いた日本企業の力が円安で顕在化=糸久正人
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失われていない日本のものづくり
前期に続き、今期も増益・最高益を見込む日本企業が少なくない。ものづくり能力の高さが、円安で改めて顕在化した。
「現場の組織能力」は依然ダントツ
円安が急速な勢いで進展している。貿易収支は10カ月連続でマイナスとなり、2022年5月は2兆3858億円の赤字となった。エネルギー問題、食糧問題なども相まって、日本経済全体の先行きの不透明感が高まっている。
しかし、22年3月期の決算ではトヨタ自動車、ソニーグループ、村田製作所などが過去最高益を記録し、23年度も大幅な増益見込みである。日本のものづくり企業はなぜ好調なのか。円安メリットは直接的な要因ではあるものの、話はそう単純ではない。長期にわたる円高基調の中で、愚直に能力構築を行ってきた日本のものづくり企業の努力のたまものといえる。
歴史を振り返れば、日本のものづくり企業に「失われた20年」というレッテルを貼るのは適切ではない。バブル経済崩壊以降、1990年ごろから10年ごろまでの期間は、日本経済の低迷期と認識されてきた。しかし、図の財務省「貿易統計」にみるように、リーマン・ショックの08年まで、日本の「機械類および輸送機器」および「鉄鋼」の輸出額は年々増加し続けてきた。
91年にはソビエト連邦が崩壊し、それに伴い日本海に掛かっていた赤い鉄のカーテンが一気に開き、中国という超大国が眼前に姿を現した。01年には、その中国がWTO(世界貿易機関)に加盟し、安価な賃金を武器にして、世界の工場としての地位を盤石なものにしていった。さらに、サムスン電子、LG電子といった韓国企業の躍進により、日本の家電産業はグローバル競争において軒並み後塵(こうじん)を拝したといわれていた時期でもある。
円高でも増益基調
それにもかかわらず、90年には約30兆円であった輸出額は、08年のリーマン・ショック前には約50兆円超へと着実に成長を遂げてきたのである。リーマン・ショックや11年の東日本大震災の影響で、輸出額は一時低迷するものの、10年代にも右肩上がりを続け、直近(22年1~5月)のデータでも輸出額は増加している。
ここで注目すべきは、85年のプラザ合意以降、「継続的な円高基調」の中において、日本のものづくり企業はこうした成長を遂げてきたという事実である。
「失われた20年」という期間において、日本のものづくり企業は、いわば、円高というイエローカードを出し続けられてきた。しかし、多くのものづくり企業は、愚直な能力構築を行い、グローバル競争を戦い続けてきた。中には、高い生産性を有しながらも、生産現場を仕方なく海外に移転してしまった企業もある。しかし、こうした不遇の時代を耐え抜き日本に生産現場を残したものづくり企業は、円安のメリットをフルに享受することになるだろう。
具体的には、自動車、半導体関連、鉄鋼、原動機、建設…
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週刊エコノミスト
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