経済・企業エコノミストリポート

インドネシアは新・産業革命で日本を追い抜く勢い=豊崎禎久

インドネシアの配車サービス「ゴジェック」のバイクタクシー運転手。バイクも電動化の流れだ(ジャカルタ) Bloomberg
インドネシアの配車サービス「ゴジェック」のバイクタクシー運転手。バイクも電動化の流れだ(ジャカルタ) Bloomberg

EV化とスマートシティーづくりを起爆剤に

 デジタル化と車の電動化にまい進する近未来の大国に、アジアの有力企業が続々と参集している。

台湾、韓国、中国勢が続々参入、影薄い日本=豊崎禎久

 人口約2億7000万人を抱えるインドネシアは、近未来に世界の経済大国に躍り出ることが有力視されている。経済協力開発機構(OECD)によると、2040年に国内総生産(GDP)が購買力平価ベースで7.5兆ドルに伸び、中国、米国、インドに次ぐ世界4位の経済規模に成長すると見込まれている(表)。

 40年に日本はGDP5.9兆ドルで世界5位にとどまる。両国の成長力の違いは圧倒的だ。19年の名目GDPで比較すると日本の5.1兆ドルに対してインドネシアは1.1兆ドル。4.6倍の格差を付けていながら追い抜かれる。40年時点で、人口3億1800万人と予想されるインドネシアに対して、日本は少子高齢化と多死社会を迎え、1億1000万人前後に落ち込む。経済規模を想定する上で人口は重要な要素だが、日本とインドネシアとの著しい成長力格差はそれだけが原因だろうか。

 それは成長産業に対する意欲の差だ。インドネシアでは、電気自動車(EV)や電動バイクなどのモビリティー(移動手段)を変革し、ICT(情報通信技術)を駆使して都市機能を高度化する「スマートシティー(賢い都市)」づくりに政府が本腰を入れている。インフラとなるエネルギー供給では、温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーの拡大を進める。

 モビリティーとICTという基幹産業2分野の変革に突き進む活力と、それを支えるエネルギー政策の戦略性が、インドネシアを世界のデジタル大国に押し上げる原動力だ。筆者は同国政府に対してそのアドバイスを行う立場であり、その一端を共有したい。

大気汚染解消を狙う

 インドネシアはオートバイが移動手段の主役だ。保有台数は1億1000万台を超え、年間販売台数実績を新型コロナウイルスが感染拡大する前の19年で比較すると、四輪車103万台に対して二輪648万台と、圧倒的に二輪が多い。ホンダとヤマハ発動機の両社で100%に近いシェアを持つ。日本にとって「金城湯池」といえる市場だ。

 そこに殴り込みを掛けたのが、電動バイクで急成長中の台湾の新興企業Gogoro(ゴゴロ)。同社については本誌の21年11月30日号への寄稿で筆者が詳報した。電池は着脱式で、市街地に設置された「電池ステーション」で使用済みの電池を返却して、充電済みの電池を借りるサブスクリプション(定額制サービス)の仕組みだ。充電時間が長い現行の電動車の弱点を克服するシステムだ。

 インドネシア政府がバイクの電動化を進める背景には大都市部の深刻な大気汚染がある。世界の大気汚染状況を示しているスイス企業のIQAirによると、首都ジャカルタはワースト1位(今年6月20日午前6時時点)。経済成長に伴う環境悪化の解消のため、バイクの電動化は早急に推進したい優先度の高い政策課題である。

 電動バイクの購買層で想定されるのが若者だ。世界的な傾向として現代の若者は所有にこだわらない。シェアリングを促進することで交通量を減らし、電動化を進めることで排ガスに起因した大気汚染の軽減と一挙両得を狙う。

 普及に向けた全体像は図の通りだ。インドネシアの国営炭鉱企業と地元配車サービス新興企業のゴジェックとの共同出資会社「エレクトラム」とゴゴロが提携。ゴゴロはプラットフォーマーとして電動バイク普及を促進し、エレクトラムは電動バイクやバッテリー交換設備の製造などを担い、ゴジェックは電動バイクのシェアリングサービスを展開する。

鴻海は新工場建設へ

 その布石としてインドネシア側は、国営石油会社のプルタミナや国営電力企業PLNなどによる共同出資でインドネシアバッテリー公社(IBC)を設立(21年3月)。今年1月に、IBCと現地エネルギー大手インディカ・エナジー、ゴゴロ、台湾の電子機器受託製造サービス(EMS)最大手の鴻海精密工業がEVと電動バイクのエコシステム(経済圏)構築に向けた覚書を締結した。鴻海は、中部ジャワ州のバタン工業団地にEV関連の新工場を建設する。投資額は80億ドル(約1兆円)と報じられている。

 インドネシアでは太陽光発電など再生可能エネルギーによる電力供給の比率を25年までに23%(20年は14…

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週刊エコノミスト

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