国際・政治エコノミストリポート

男性社員の育児支援に本腰を入れたら業務改善につながった話=渥美由喜

育休を契機とした職場全体の業務改善は「介護ラッシュ」を乗り切る「大きな武器」にもなる Bloomberg
育休を契機とした職場全体の業務改善は「介護ラッシュ」を乗り切る「大きな武器」にもなる Bloomberg

今秋「男性版産休」スタート

 今年10月から「産後パパ育休、男性版産休」がスタートするが、男性の育児参画が進むかは未知数だ。

育休の「父母格差」に是正の動き

業務改善を欠けば絵に描いた餅に=渥美由喜

 2020年の「男性育休」取得率は12.7%と対前年比で約1.7倍の水準へと急上昇した。7月には、厚生労働省の「雇用均等基本調査」(以下、雇均調査)の新たな数値が公表される予定だが、おそらく最高値を更新するだろう。他方で、女性育休取得率は81.6%と08年の90.6%をピークに減少傾向にある。

 したがって、一見すると育休をめぐる男女の取得率ギャップは大きく改善しつつあるように見える。しかし、取得日数では依然として隔たりは大きい。

 実は、男性の育児参画に本気になって取り組み、大きな成果を上げている先進事例は、地方の中小企業に多い。

育休日数は父4.1日、母297.2日

 育児休業には二つの定義がある。一つは、先に紹介した雇均調査のように、1日単位で取得でき、日数制限はない(広義の育休取得)。もう一つ、育休取得時に雇用保険から支給される「育児休業給付金」では、取得する1カ月で10日以下の就労日数が受給要件となっている。すなわち、月に20・21日(月によって異なる)以上の取得日数でなければ支給されない(狭義の育休取得)。1日や2日、もしくは1週間だけ取得しても、支給の対象にならない。

 最新の『雇用保険事業年報』(20年度版。以下、雇用保険)によると、20年度の育休給付金の受給者数は男性4.6万人、女性37.3万人。したがって、同年に生まれた出生数84万人を分母として、「狭義の育休取得率」を算出すると男性5.5%、女性44.4%といずれも「広義の育休取得率」を大きく下回る(図1)。

 下回る理由は、定義の違いに加えて、「自営業・無職等の親はそもそも育児休業を取得できない」「雇均調査はサンプル調査(一部の調査対象を選び、その情報を基に元の集団全体を推計)」などがある。

 そこで全体観をとらえるために、上記2統計および、厚労省の「21世紀出生児縦断調査」を基に、20年の出生児における「就労状況別にみた父母の育休取得状況」を推計した(図2)。

 図2をみると、「専業主婦など、母親の半数近くは育休取得権がない」「父親の8割以上は育休取得権があるにもかかわらず、大半は取得しないか短期取得」となっている。後者に関してより深掘りするべく、雇均調査を基に「育休取得権を持つ父母のうち、期間別にみた取得状況」を試算したところ、平均取得日数は母親が297.2日に対して、父親はわずか4.1日に過ぎない(図3)。この両者の取得日数の合計301.3日を子育て100%として父母に配分すると、実に母98.6%対父1.4%と大きな隔たりがある。

 こうした状況を踏まえ、厚労省は「男性の育児休業取得促進」を目的とした「出生時育児休業」(産後パパ育休、男性版産休)を創設し、今年の10月から施行される。ポイントは、(1)通常の育休制度とは別に、子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能、(2)申し出期限は原則休業の2週間前まで(これまでは原則1カ月前まで)、(3)通常の育休制度(2回に分割可能)に加え、新たな「産後パパ育休」も2回に分割して取得可能、(4)事業主と労働者が合意した範囲内で休業中に就業することが可能(現行は原則就業不可)──だ。

 すでに4月から、企業は育休取得を推進するための「研修の実施」「相談窓口設置」「取得事例の収集・提供」「取得促進に関する方針の周知」のいずれかの措置を講じることが義務化され、制度周知と本人への取得意向の確認も必須となった。

 加えて、来年の4月以降、従業員数1000人以上の企業は、育児休業等の取得状況を年1回公表することが義務付けられる。

 こうした制度改正は、男性の育休取得率向上には確実に寄与するだろう。しかし、前述の「98.6対1.4」という格差を踏まえると、目指すべき方向性は「単なる男性の取得率向上」から、「取得日数の格差」是正へと転換すべきだ。

北欧では性差も考慮

 例えば、スウェーデンのように、取得時期を延長するのも一考に値する。同国の付与日数は18カ月(うち約16カ月は給付あり)。給付ありの付与日数のうち384日は子どもが4歳に達するまで、残りの96日は子どもが12歳に達するまで取得可となっている。

 20年前、筆者は同国の社会保険庁で、父親の育休取得は子供が成長してから夏期に取得するケースが多いというデータを見た。例えば、父子でキャンプに行く、数週間かけて自転車旅行をするといった使い方が好まれている。

 同国の政策は男女平等が特徴とよくいわれるが、画一的にそろえるのではなく、性差の特徴を踏まえて政策の結果が公平になるように工夫されている。

 筆者自身、15年前と12年前に育児休業を数カ月ずつ取得したが、出産直後は授乳する母親に比べてあまり役に立てなかった。むしろある程度大きくなってからの方が、父親ならではの役割を果たすことができると感じた。そこで、十数年前から内閣府等の少子化関連の審議会において、「育休と短時間勤務の制度を統合し、取得時期を延長可能にするとともに、部分休暇(1日のうち一定時間を休暇に充てる)を選択肢に加えるべき」と主張してきた。しかしながら、財源の違いなどから実現には至っていない。来年4月に設置される「こども家庭庁」では、新たな政策展開を期待している。

会社の業績と相関関係

 ところで、筆者は十数年前から自治体の依頼に基づき、ワーク・ライフ・バランス(WLB)や女性活躍に取り組む中小企業を中心にコンサルティング活動を行ってきた。これまでに訪問した企業数は、海外十数カ国を含み、のべ6000社を超える。制度うんぬんにかかわらず、男性の育児参画に本気になって取り組み、大きな成果を上げる先進事例は、国内外いずれも地方の中小企業に多い。

 そうした企業では、単に休業取得を推進しているのではなく、経営戦略の一環として取り組んでいる。また、会社に余裕があるから取り組んだわけではなく、業績悪化などネガティブな状況下において経営陣と社員が必死になって取り組んだ結果、業績を大きく伸ばしたという事例が多い。

 例えば、岐阜市にあるアース・クリエイト(14年に厚労省「イクメン企業アワード」グランプリ受賞)は、10年代初頭に筆者が岐阜県の認定制度「WLB推進エクセレント企業」の認定に向けたコンサルティング事業で初めてうかがう前、リーマン・ショックの打撃で苦境にあった。

 年次有給休暇を取得する社員はほぼゼロ。社員の不満は大きく、入社から5年以内に大半がやめていくという状況だった。そこで、ゼロから業務の進め方を見直した。普段から社員2人がペアになり、業務内容や予定を共有。社全体の仕事の予定や進捗(しんちょく)もスマートフォンやタブレット、ウエアラブル端末で確認できるようにIT化を進めた。11年からの5年間で、売り上げ2倍、利益3倍、時間外労働3分の1、有給取得率85%、離職率0%、男女ともに育児休業取得率・日数ともに100%という大きな成果を上げた。経営陣が一方的にトップダウンで進めるのではなく、社員からの提案といろいろなテーマの委員会というボトムアップ方式を組み合わせた。

 同社の岩田良社長は、社員時代に3児それぞれに育児休業を取得した。経営理念は、「社員が充実した家庭生活を送ることは必ず仕事にも好影響を及ぼす」「社員のみならず、家族の幸せも考えることが会社の成長につながる」だ。結果、休業中に支援された分、社員は仕事で頑張って周囲への恩返しや会社への貢献を心がけるという「支援と貢献」の風土が定着した。

 こうした風土があるからこそ、育児が理由であれば、2週間以上、日数制限なしに有給休暇を取得できる(難病の子どもの看護で半年間、取得した男性社員もいる)という「育児目的特別休暇」制度が過度に乱用されずに、機能している。中小企業は人手不足だから社員を休ませるのは困難といわれる。だが、経営陣と社員の距離が近い、小規模だからこそ臨機応変な対応がしやすい、という特性を生かすことで、大企業の10倍以上のスピードで進むことが可能だ。

「介護ラッシュ」にも効果

 社員にとっては制度改正という、強い追い風が吹いている。筆者が、子育て、介護、看護(子どもが難病)というトリプルケアを乗り超えられたのは、自分の業務改善スキルを磨いたからだ。大まかにいうと「やめる(悪影響が出たら戻す前提でやめてみる)、かんたんにする(業務の進め方をシンプルにする)、まねをする(生産性の高い方法を共有)、してもらう(専門性の高い人・部署に任せる)、いっしょにする」の頭文字を「やかましいの手法」と呼んでいる。

 育児休業取得を契機として、本人のみならず職場全体で業務改善に取り組むことは、今後、本格化する「介護ラッシュ」を乗り超えるうえでも大きな武器となる。ぜひとも働く人も、企業も、男性の育休に挑戦してほしい。今は大きな変革期だ。変革=「CHANGE」のGはCとTの組み合わせ。Tはためらい。ためらいを捨てて挑戦する社員・企業には、Gの字がCに代わり、「CHANCE」=好機が待っている。

(渥美由喜・関西広域連合有識者委員)

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