子どもたちを銃から守る最終手段「教師の武装化」で予想される“最悪のシナリオ”=中岡望
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学校で銃犯罪が増えても銃の所持規制が一向に進まない米国。「教師の武装化」という極論を前に、現場が揺れている。
米で深刻化する学校への銃持ち込み
米国の銃乱射による悲劇が止まらない。連日のように銃による殺人事件が報道されているが、5月24日にテキサス州の人口約1万5000人の小さな町ユバルディの小学校で起きた銃乱射事件は、米国社会にかつてないほどの大きな衝撃を与えた。
祖母を銃撃したあと小学校に向かった18歳の少年は、教室で銃を乱射し、19人の児童と2人の教師を殺害した。7歳から10歳の児童が犠牲になった。少年は現場から逃亡し、最後は警察官によって銃殺された。
この1年間に20歳以下の若者が起こした銃による殺人事件は、前年比で約30%増えている。社会的荒廃が若者に大きな影響を与えているのは間違いない。
学校における銃乱射事件は、米国では決して珍しくない。最大の被害者を出したのは、2012年にコネティカット州の小学校で起きた事件で、児童20人を含む計26人が犠牲になった。18年にフロリダ州の高校で起きた事件では、教師を含む17人が犠牲となった。今回のテキサス州の事件は、死者の数でいえば過去2番目に多い事件だ。
ただ、過去に発生した銃乱射事件について調べてみると、さらに深刻な問題が浮かび上がってくる。
「K12学校乱射事件データベース」によると、1970年から22年6月までに起きた銃乱射事件の発生件数は2069件で、年間の最多は21年の249件。この年は、休みの日を除きほぼ毎日、学校で銃乱射事件が起きていた計算になる。
容疑者の半数は在校生
殺害された児童・生徒の数は684人、負傷者は1937人で、最も犠牲者の数が多かったのは18年の51人である。
問題は、容疑者だ。半数近い934件が在校生による犯行である。実は、テキサス州の事件のように外部から侵入した容疑者が銃を乱射する事件より、学校内での生徒間の争いなどに端を発した事件の方が多いということになる。約37%は生徒同士のけんかが発展して銃発射事件になっている。ここから見えてくるのは、生徒が学校に銃を持ち込んでいるという深刻な事実だ。
犯人の年齢は17歳が最も多く、次いで16歳、15歳と続く。銃乱射事件の多くは、中学校と高等学校で起きているということになる。
生徒が銃を学校に持ち込むという状況は、日本人には到底理解しがたい。なぜ、このようなことが起きるのか。
4割は「家に銃がある」
米国は世界最大の銃保有国である。21年の『ナショナル・ファイアアーム調査』によると、米国人の32%、18歳以上の成人8140万人が銃を保有している。米国における銃保有数は4億丁を超えており、その98%、3億9300万丁の銃は民間人が保有している。ナショナル・ファイアアームの調査によると約41%、ギャラップ社の調査によると44%の家庭が、家に銃を置いているという。その結果、家で子供たちが銃で遊んでいて暴発するという痛ましい事故が多発している。
テキサスのような南部の州では、親が子供に銃の撃ち方を教える光景がごく普通にみられる。つまり、自宅に日常的に銃が置かれているために、生徒が学校に銃を持ち込み、銃乱射事件を引き起こしているのである。
米国では銃購入の際、連邦捜査局(FBI)の全米犯罪歴即時照会システム(NICS)で犯罪歴や精神疾患の有…
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週刊エコノミスト
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