ロシアが実効支配を強める「北方領土」で人的交流の継続を=山田吉彦
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日露関係は悪化するが、北方四島周辺での漁業協力は継続している。住民同士の相互依存の関係もあるからだ。
「KAZU Ⅰ」搭乗者の発見者はビザなし交流の参加者だった=山田吉彦
ロシアが今年2月、ウクライナへの軍事侵攻を開始し、ウクライナ領内では戦闘が続いている。平和な世界を望む日本は、ロシアによる武力侵攻を容認することはできない。日本政府が国際社会と同調し、ロシアに経済制裁を断行したことは周知の通りだ。
ウクライナ問題に関して非難する日本に対し、ロシアは海軍軍艦を日本沿岸に派遣するなど日本への威嚇とも取れる行為を取っている。7月4日には、中国船とほぼ同時に尖閣諸島周辺の接続水域を航行。国際法には抵触しないとはいえ日本を挑発する行為であり、当然、日露間は険悪な状態となっている。
ロシア外務省は2022年3月21日、ロシアのウクライナ侵攻に対する日本の経済制裁などに関する対抗措置として「日本との平和条約締結に向けた交渉を継続するつもりはない」との声明を出した。日露間は第二次世界大戦直後、旧ソ連が北方四島(択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島)を武力侵攻し、実効支配体制を確立した「北方領土問題」が存在するため、いまだに平和条約が締結されていない。
16年には安倍晋三首相(当時)とロシアのプーチン大統領が、安倍氏の故郷である山口県と、東京都内で会談を行い、北方領土問題の解決に向けた動きが期待された。北方四島における日露共同経済活動が提案され、観光、水産養殖、農産物の温室栽培、風力発電、ごみ処理の5項目の日露共同事業の開始に向けた交渉が続けられた。
また、19年10月には、国後島、択捉島の景勝地を訪れる観光ツアーが実施され、日本人観光客と政府関係者ら44人が参加。北方四島における新たな日露関係が始まったかのように思われた。しかし、20年になると、新型コロナウイルスのまん延で、日露間の交流は停滞し、同年以降、北方四島にビザの取得などの手続きを経ずに訪れる「北方四島ビザなし交流事業」も途絶えている。
返還の意思まったくなし
交流が途絶えるとロシアの北方領土問題に対する姿勢は鮮明になった。平和条約の締結は目指すものの北方四島の返還についてはまったく考えていないことが明らかになったのである。ロシアは、20年に憲法を改変し「領土割譲に向けた行為や呼びかけを許さない」と明記した。クリミア半島を意識した憲法条項だが、北方四島もその例外ではない。
そして、プーチン大統領は「この条項が特別な意味を持つ、ある地域の住民が記念碑を建てた」と述べたが、同年7月2日に国後島にこの条項を刻んだ記念碑が建てられたことを念頭に置いている。この時点でプーチン大統領は、北方領土返還の意思がないことを国内外に示していたのだ。
21年7月には、ミシュスチン首相が択捉島を訪れ、クリル諸島(北方四島及び千島列島)に経済特区を設定することを提案。同年9月には、プーチン大統領が、極東ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムの演説で、クリル諸島に外資を誘致するための特区を創設することを公表した。この特区では、企業の関税を免除し、付加価値税や法人税、資産税も一定期間は賦課せず、社会保障の負担も軽減するとし、ロシア企業や、日本を含めた外国企業の進出を求めた。
つまり、ロシアの意図した日露共同経済活動は、この特恵経済制度…
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週刊エコノミスト
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