テクノロジー学者が斬る・視点争点

脱炭素のためには合理的でも現実的でもないEV一辺倒=糸久正人

 電気自動車(EV)のみが、脱炭素の切り札という議論は性急すぎる。

中長期的な温暖化対策の本命はプラグインハイブリッド車

 自動車産業において、「カーボンニュートラル=電気自動車(EV)」という認識が広く浸透しつつある。

 世界123カ国・1地域がコミット(約束)する2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、各国は30年に対20年比で20~40%の燃費改善目標を掲げている。こうした背景を受けて、日本市場においても、日産自動車や米テスラのEVが販売台数を伸ばし、中国大手EVメーカーBYDも本格参入を決定した。ホンダは40年までにすべての四輪車をEVや燃料電池車(FCV)にすることを表明し、トヨタ自動車は30年に年間350万台のEV販売を目指すと宣言した。EV市場が活気づいているかのように見える。

 むろんEV化は超長期的にみれば目指すべき方向性であることは間違いない。しかし、今後10~20年の中長期的なスパンでみれば、EV化一辺倒の施策は二酸化炭素(CO₂)削減目標達成に対して合理的な手段ではなく、また現実的でもない。

今の電源構成では逆効果

 まずCO₂の排出量比較という視点に立てば、本来はライフサイクルアセスメント(LCA)で評価すべきである。すなわち、原料・燃料の採掘、部品の製造・組み立て、輸送、走行、廃棄・リサイクルのすべての段階で発生するCO₂の合計である。

 ここでポイントになるのが、航続距離を伸ばすために大容量のバッテリーを必要とするEVは、電池の製造時と「Well to Tank(原料から燃料製造)」において多くのCO₂を排出するために、EVだけが突出して環境性に優れているというわけではない(図)。

 マツダの試算によれば、EVがICE(内燃機関車)のCO₂排出量と均衡するのは、約9万キロであるという。換言すれば、9万キロ走って初めてEVの方が優れているということができる。

 日本における乗用車の年間平均走行距離は約6000キロ程度である。したがって、9万キロを走行するには、約15年の歳月を必要とする。そのため、無理にEV化を推進すれば、30年のCO₂削減目標を達成することは、かえって難しくなってしまう可能性もある。

 次に、いうまでもなく、EV化によるCO₂削減効果は、電力構成によるところが大きい。現状、日本においては火力発電が主流であり、猛暑や原発停止による電力需給の逼迫(ひっぱく)などを考えれば、EVが普及すればさらに化石燃料を消費することとなる。むろん再生可能エネルギーの比率を増やせばCO₂削減に大きく寄与するが、現状、メガソーラーなどのように、山林を切り開いてはげ山化してまで導入することは本質的とはいい難い。さらに、現状では電力消費者の大幅な負担増につながってしまうという問題もある。

 一方、ユーザーの視点から見た場合、EVでは従来のモビリティー社会の利便性を享受することが難しい。航続距離と充電時間の制約が大きいからである。寒冷地での利便性はさらに低下する。通常、大型バッテリーを搭載することで航続距離を伸ばしているが、むろんバッテリーを含む車体重量…

残り1508文字(全文2808文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で過去8号分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

10月4日号

新制度スタート! マンション管理必勝法14 動き出した二つの評価制度 住人の意識改革が始まった ■荒木 涼子/白鳥 達哉18 よく分かる「評価制度」 高得点獲得のポイント ■荒木 涼子20 国の制度もスタート 自治体が優良管理を「認定」 ■白鳥 達哉23 迫る「第三の老い」 ここまで深刻な管理員不足 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事