人工妊娠中絶の禁止に反発 侮りがたいリベラル派 久保文明
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中絶容認の勢力を取り込んだ民主党が中間選挙で善戦するかもしれない。
米中間選挙の争点
米連邦最高裁判所は今年6月、人工妊娠中絶を選択する権利を全米全ての女性に認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆し、州政府の判断によって中絶を禁止することを可能にした。約半世紀続いていた中絶の権利破棄の判断に、中絶に反対していた保守勢力が歓喜する一方、女性の選択権の問題とするリベラル派は落胆。米国民の世論は真っ二つに分かれた。バイデン大統領は「最高裁による悲劇的な過ちだ」と批判し、“過ち”を正すには中間選挙が重要だとする選挙を意識した発言をした。
米国では人工妊娠中絶は19世紀後半から州法によって禁止されていたが、60年代、女性運動が台頭。中絶選択権を認めるよう州議会に働きかけた結果、72年までに16州がその権利を認めた。73年に連邦最高裁による「ロー対ウェイド判決」があり、人工妊娠中絶を「プライバシーの権利」の一部と認定した。
この判決後、中絶の件数は急増したが、これに非常に驚いたのが70年代半ばから運動を開始したプロテスタント保守勢力(宗教保守)だった(一部カトリック保守派も同調)。彼らは中絶を殺人とみなし、また女性や同性愛者運動の台頭、ポルノの蔓延(まんえん)に象徴される文化的退廃など、60年代から顕著になった米国社会の世俗化傾向に反発。米国の宗教保守勢力の政治活動は、実は20年代半ばに表舞台から退いたが、こうした状況を目の当たりにして70年代半ばに復活した。その拠点である信仰心のあつい南部は、この間、民主党の金城湯池であった。
70年代から90年代にかけて、米国では政党再編成が進行。保守化した共和党は南部で勢力を急伸し、北部は地盤の一部を民主党に奪われ党内リベラル派はほとんど消滅した。一方、南部保守派と北部リベラル派が同居していた民主党は、ほぼリベラル派のみが残った。こうして米…
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週刊エコノミスト
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