新興国に火種 米利上げで資金流出 ドル高で外貨建て債券の債務増大 西濱徹
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年明け以降、新興国通貨は大きく下落している。
通貨危機の懸念なくても債務危機の恐れ
世界経済のコロナ禍からの回復に加え、ウクライナ情勢の悪化による供給制約も重なり、幅広い商品市況の上振れを受けて世界的にインフレが強まっている。米連邦準備制度理事会(FRB)が物価抑制を目的にバランスシートの縮小(QT)を加速させるとともに、大幅利上げを実施するなどタカ派への傾斜を強めている。
こうした動きは、コロナ禍対応を目的とする世界的な金融緩和を受けて「カネ余り」の様相を強めてきた国際金融市場を取り巻く環境を変化させるとともに、世界的なマネーフローに影響を与えている。なかでも、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が脆弱(ぜいじゃく)な新興国においては、資金流出の動きが強まるなどの影響が懸念される。
事実、FRBのQT加速および大幅利上げを背景とするドル高の動きを反映して、年明け以降における新興国通貨は調整の動きを強めており、なかでも7月半ばにインドのルピーやチリのペソなどは最安値を更新したほか、足元ではトルコのリラが最安値に迫るなど、経済のファンダメンタルズが脆弱な新興国は資金流出に直面している(図1)。
FRBによる利上げ実施を巡っては1990年代にメキシコやブラジルなど中南米、タイやインドネシア、韓国などアジアにおける通貨危機を招いたほか、その後にロシア経済危機に至る一因となったとみられ、国際金融市場では今回も新興国が同様のリスクにさらされることも警戒されている。
当時の通貨危機に陥った国々は固定相場制度を採用しており、資金流出に伴う通貨安圧力の高まりに対して為替介入を通じて通貨安定を図る必要があった。その結果、外貨準備が不足して固定相場制度の放棄に追い込まれ、通貨危機に至ったことが原因となっている。
しかし、足元においては多くの新興国がすでに変動相場制度に移行しており、それに伴い一定水準に通貨を安定させる必要性は低下しているため、通貨危機に陥る懸念は大きく後退している。
経常赤字国で景気減速
一方で、リーマン・ショック後の全世界的な金融緩和の動きは、国際金融市場における「カネ余り」を招くとともに、欧米など主要国を中心とする金利低下で、より高い収益を求める投資家に対して新興国への資金流入を促す一助となってきた。こうした金融環境などを追い風に、国際金融市場においてはここ数年、新興国の経済主体による債券発行を通じた資金調達が活発化してきた。主要国における金利低下も追い風に、ドルなど外貨建て債券の発行が拡大してきた(図2)。
これは、世界的な低金利環境に加え、FRBのバランスシート拡大(QE)によるドル安局面が続く状況において、新興国の金利負担の低下、自国通貨建てでみた債務負担の軽減につながるなど好条件での資金調達が可能であったことも背景にある。
しかし、足元ではこうした好条件はすべて逆向きに働いている。新興国における資金流出の動きは、経常赤字を抱えるなど資金過小状態にある国々において、資金不足状態が幅広い経済活動の足かせとなることで景気の足を引っ張ることにつながる。
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週刊エコノミスト
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