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法務・税務

中古マンションの評価を変える「新制度」スタート 荒木涼子/白鳥達哉(編集部)

五つ星を獲得したプラウド葛西
五つ星を獲得したプラウド葛西

マンション住人の意識改革が始まった

「中古マンションを購入し、引っ越し後に管理組合の状況について蓋(ふた)を開けてみたら……。総会の議事録はない。そもそも理事会が機能していない。自転車はあふれ、ゴミ置き場の異臭がひどい、修繕積立金も足りない」──。

 数年前、東京23区内で「駅近」の築浅となる中規模マンションへある家族が越したときの話だ。(マンション管理必勝法 ≪特集はこちら)

 理事会の役員は限られた住人のみで運営。配管の水漏れ、火災報知器が外れているなど、不具合も目立ち始めていたが、住人が理事会や管理会社に伝えても改善されず、次第に誰も何も言わなくなり、逆にやりたい放題になっていた。

「このままではマンションがダメになる」。意を決して自らが役員に立候補。賛同してくれる住人と協力して理事会の改革を始めた。管理会社を変更し、課題を一つ一つ解決。特に大きかったのが、修繕積立金の積み立て方式だ。それまでの金額では築12年ごろに予定している1回目の大規模修繕に約3000万円足りないことが判明。積立額をいっきに2倍に引き上げた。反対する人もいたが、「修繕をおろそかにすると資産価値が下がる。住むにも、売るにも、相続するにもいいことはない」と説得。現在、大規模修繕に向け準備中だ。

五つ星マンション18件

「マンションは管理を買え」といわれて久しいが、管理するのも、その良しあしを見分けるのも簡単ではない。そんな状況を変えようと、今年4月からマンション管理に関する二つの新しい制度がスタートしている。

 一つ目の制度はマンション管理業協会が作った「マンション管理適正評価制度」だ。個々の管理状況や管理組合の運営状況をチェックし、100点満点で6段階で評価する。9月13日時点で全国で35件の管理組合が評価を受け、うち18組合が最高等級(星五つ)を獲得した(表)

 その一つ、東京メトロ東西線の葛西駅から歩いて3分の「プラウド葛西」(東京都江戸川区、築8年、12階建て)。整った庭木を横目にエントランスをくぐると、伊敷夢二理事長が案内してくれた。

 伊敷さんは分譲当初から理事会に関わってきた。評価制度を知ったとき、「これは自分たちが普段やってきていること」と感じたという。第三者にきちんと評価してもらえるならありがたい、と管理会社に相談して準備した。

 入居時にはなかった災害対策のマニュアルや連絡用の居住者名簿を整備するなどして92点。重要なポイントである修繕積立金は、当初の「段階増額方式(年数がたつごとに金額が増える方式)」から、将来が見通しやすい「均等積み立て方式(金額が一定額で変わらない方式)」に移行して数年たち、次回はさらに加点が見込める。

 2000年代に急増し、人気のタワーマンション。タワマンが並び、新しい街として魅力を集める川崎市中原区の武蔵小杉では、「プラウドタワー武蔵小杉」(築7年、45階地下1階建て)の池晋一分譲住宅部会理事長に話を聞いた。

 同マンションは住人も多く、管理組合の総会で議論が必要な議題も多いため、理事会の他に個別の議題をあらかじめ検討する委員会、例えば資産価値向上委員会や防災委員会などを設置している。評価制度にあたっても、専門の委員会を中心に準備し、100点満点を得た。池理事長は「今回の評価は現在時点のもの。継続的に質の高い管理が続けられるよう、組合内での内部監査やPDCA(計画↓実行↓評価↓改善)を回していくことが重要だと感じた」。

“築浅”のマンションばかりではない。満点の「東建ニューハイツ花小金井」(東京都小平市、11階建て)は1991年建設で築31年。「星五つ」で90年代は3件だけだ。

 管理会社の長谷工コミュニティの荒木法行部長代理は「評価制度は管理会社にとっての通信簿でもある。組合へのサポート力が可視化されるといっても過言ではない。高評価となれば、管理会社としての評価も高まる」と期待する。

70~80年代に建てられた物件でも高評価

 また、「特に優れている(星五つ)」の評価とはいかずとも、「優れている(星四つ)」「良好(星三つ)」には、70年代や80年代に建てられたマンションも少なくない。こういった管理も多く手がける東急コミュニティー・マンション事業本部事業統括部の高木翼課長は「ここは管理会社としての腕の見せどころ。評価ランクを星三つから四つ・五つに上げるには何が必要で、どうしていけばよいか、管理組合と話し合いしやすくなった」と話す。

 さらに、不動産大手・東急リバブルの「中古マンションライブラリー」では、評価制度を受けた物件であれば、“星の数”や各項目の得点を一目で知ることができる。

「評価制度」の利用には、まず管理組合が総会で決議した上で管理会社に登録を申請。その後、協会指定の講習を修了したマンション管理士らが評価した上で、協会に結果を登録する流れだ。有効期間は1年間で登録料5500円(税込み、初年度無料)に加え、管理会社の手数料などがかかる。

「管理の見える化」が進めば、中古市場で「築年数」「駅徒歩」といった数値化しやすいものだけで判断されやすかった中古マンションの評価が、大きく変わる可能性がある。

 協会は「スタートから2年目が終わるまでに6000組合、3年で1万2000組合の登録数を目指したい」とする。また、9月時点で評価が公開されているマンションは「高得点」の物件が多いが、三井不動産レジデンシャルサービスの矢島弘史・戦略営業部長は「制度を広め、登録自体がメリットにつながるようにしたい。築年数の経過したマンションであっても星三つであれば相対的に適切な管理状態だと判断してもらえるような指標になれば」と話す。

 ただし制度には課題も残る。周知も必要な上、評価の「抜け道」とも取られかねない項目もあるからだ。例えば、大規模修繕工事に向けた収支計画は、あくまで「計画」。工事時点で費用を賄える保証はない。徴収がより確実な均等積み立て方式の方が高得点が得られる仕組みだが、収支計画が予定上で整い、他の項目で点を積み上げれば、星五つが得られる。

自治体「認定」第1号は築48年

認定第1号の背景には、高島平ハイツの管理の歴史が刻まれた資料の存在がある
認定第1号の背景には、高島平ハイツの管理の歴史が刻まれた資料の存在がある

 もう一つ、4月から始まったのが、マンションの管理適正化法に基づく「マンション管理計画認定制度」だ。こちらは都道府県や市、区などの自治体が適正を「認定」する。ただし、自治体が計画を未作成だと始まらない。国土交通省によると、計画作成済みの自治体に建つマンションが、全国のマンションの7割に達するのは23年4月ごろの予定で、本格化はこれからになりそうだ。

 こうした中、全国第1号の「認定マンション」として注目されたのが、東京都板橋区の「高島平ハイツ」(築48年、9階建て、95戸)だ。都営地下鉄三田線高島平駅から歩くこと5分。外装デザインこそレトロだが庭木が整い、バリアフリー設備もあり、至る所で「行き届いた管理」が目に入ってきた。

 申請に携わった大規模修繕委員長を務める篠原満前理事長は、「(認定は)歴代の理事会が記録を残してくれていたからこそ」と管理の歴史を紹介してくれた。1階の管理組合事務室の棚には、新築当初からの記録がある大学ノートなどが年代別、項目別でファイルにとじられている。手書きやワープロ印字もあり歴史を物語る。

 分譲当初は低めの設定だった修繕積立金も、1回目の大規模修繕での一時金徴収を機に「均等積み立て方式」にして増額。以降増額せず12年ごとに大規模修繕工事を行い、予算書作成や業者選定などは管理組合主導でしてきたという。こうした履歴の書類もそろい、認定の際には、区の担当職員も書類の充足に驚いたほどだ。

懸念される二極化

「基準が明確になり、管理状況やその改善点も分かりやすくなった」。野村不動産パートナーズのマンション事業統括部、能勢宏樹部長は2制度の意義を説明する。

 一方どちらの制度も維持管理に関心が低い管理組合を底上げできるかは、不透明だ。マンション問題に詳しい大阪経済法科大学の米山秀隆教授は、「問題は空き室が増えるなどして住人がほとんどいなくなった所。維持管理に熱心でないマンションとの二極化が進んでおり、制度はそれをはっきりさせるきっかけになる」と指摘する。

 普段訪れることのない別の階でどんな不具合が起きているかなど把握は難しい。だが、マンションは運命共同体。両制度の成否は、住人や区分所有者の意識をどれだけ高められるかにかかる。

(荒木涼子・編集部)

(白鳥達哉・編集部)

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