経済・企業

日銀発「異次元の金融危機」で日本はハイパーインフレに向かっている 藤巻健史

「財政ファイナンスではない」と言う黒田東彦日銀総裁
「財政ファイナンスではない」と言う黒田東彦日銀総裁

 バブル崩壊から30年余り。1997年の金融危機からは25年が経過した。足元の円安進行は、98年の長信銀破綻をきっかけに発生した「日本売り」も想起させる。経済危機のマグマはたまり続け、中央銀行・円を追い詰める。

財政破綻を先送りした「異次元緩和」こそ「飛ばし」そのもの

 日本の借金は国内総生産(GDP)比で260%(国際通貨基金〈IMF〉2021年)を超え、断トツで世界最悪だ。しばしば財政危機がささやかれるイタリアの同150%(同)よりはるかに悪いし、預金封鎖&新券発行のあった終戦直後よりも厳しい状況だ。

 大ざっぱにいって税収は、GDPに比例する。GDPが2倍になれば、国民が2倍豊かになり、国も2倍豊かになる(税収が2倍になる)。その意味で借金額のGDP比とは、「借金を税金で返す難易度ランキング」ともいえる。つまり、日本は「借金を税金で返すこと」が世界で最も難しい国になってしまったのだ。

 バブル崩壊(1990年初)以降、三十数年間、毎年30兆〜40兆円もの財政赤字、コロナ禍の20年度には112兆円もの赤字(第3次補正後)を垂れ流してきたのだから当然である。

 よく国家と家庭は違うと主張する人がいる。違う点は国家には徴税権があるが、家庭にはないことに過ぎない。借金は返さなければいいという人もいるが、貸し続けるかどうかの決定権はお金を貸す(国債を買っている)方にある。借り手(この場合は政府)の権利ではない。

 国の借金である国債には満期があり、満期には返済しなければならない。国は毎年赤字で返済する余裕資金がないから、その年の新たな借金分とともに、その償還原資を国債の入札で調達する。毎年の赤字が30兆〜40兆円なのに百数十兆円の国債を発行しているのは、そのためだ。入札で、それだけの国債を完売できなければ、政府はデフォルト(債務不履行=財政破綻)となる。今や財政は綱渡り状態なのだ。

 本来なら13年、14年ごろにはデフォルトしていてもおかしくなかったが、13年に日銀総裁に就任した黒田東彦氏はとんでもない政策を打ち出し、財政破綻を先送りした。その政策こそが、異次元の量的質的緩和だ。これは、まさに日本得意の「飛ばし(簿外債務)」そのものである。

 約2600億円の損失を海外に「飛ばし」て、破綻を先延ばしした山一証券と同じ行為で、危機の先送りだ。97年の金融危機は、一企業の飛ばしにすぎなかったが、今回は国家レベルだ。ツケは段違いに大きい。山一は結局、その損失を隠し通せず破綻したが、日銀も廃せざるを得なくなるだろう。当然、発行する円も紙くず化してしまう(本誌22年4月26日号参照)。

 97年11月の金融危機から25年。当時は90年代初に崩壊したバブルの不良債権が噴き出し、その後、長期の景気低迷、経済危機の起点となった。それから四半世紀が過ぎ、今私たちが直面するのは、危機を先送りし続ける日銀の危機そのものである。

政治家が好む紙幣増刷

 私が参議院議員時に「異次元緩和とは財政ファイナンス(日銀による財政赤字の穴埋め)ではないか?」と質問すると、黒田総裁は必ずや「デフレ脱却のためだから財政ファイナンスではない」と答弁した。

 しかし、財政ファイナンスか否かは目的や原因で判断するものではない。失火であろうと放火であろうと「家が燃えていれば火事」なのだ。「政府に中央銀行が信用供与をすること」という財政ファイナンスの定義からすれば、「発行国債の50%以上を中央銀行が保有している状態」は財政ファイナンスそのものだ。

 財政ファイナンスは、世界中で禁止されていた。71年に金本位制が崩れ(ニクソン・ショック)、管理制度に移行してからは、中央銀行はお金の刷り過ぎへの注意が必要となった。

 政府が歳出を増大させれば、その原資は「増税」か「紙幣の増刷」のいずれかしかない。政治家は国民に不人気な増税より…

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週刊エコノミスト

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