熱狂の不在、サッカーW杯カタール大会 宇都宮徹壱
有料記事
開幕まで50日を切ったサッカーワールドカップ(W杯)カタール大会。「熱狂と興奮」が確約されてきたイベントだが、今回は盛り上がりに乏しい。サッカー文化が希薄な小国という選択に落ち度はなかったか。
岐路に立つ世界最大の祭典
「なぜ、こんなに盛り上がっていないのだろう」──。
同業者と顔を合わせるたびに、ため息交じりにそんな話をすることが、すっかり定着している。何が盛り上がっていないかといえば、中東のカタールで今年開催される「FIFAワールドカップ」(サッカーワールドカップ以下、W杯)のことだ。
不評を買った11月開催
W杯は4年に1度、1994年以降は冬季五輪と同じ年に開催される。第1回大会は30年にウルグアイで開催され、第二次世界大戦の影響で12年のブランクがあったものの、それ以外は4年に1度、連綿と続いてきた。夏季五輪は昨年初めて、奇数年に開催されているが、W杯はパンデミックの影響を受けることなく、開催されることが確実視されている。
われわれサッカーの世界で禄を食(は)む人間にとり、W杯イヤーは4年に1度の慈雨のような存在であった。要するに「稼ぎ時」であったのだ。ところが今大会に関しては、まるで盛り上がっていない。本稿を書いているのは、開幕60日前だが、この話題を取り上げるメディアも、ほとんどない。
なぜ、盛り上がらないのか。理由はいくつか考えられる。
まず、日本代表の本大会出場が、もはや当たり前になってしまったことがある。今回で7大会連続である。森保一監督のチームづくりが、よくも悪くも手堅く、あまり話題性を提供できていないこと。現在の代表の主力のほとんどが海外組であるため、ライトなファンには身近な存在となりにくいこと。そして、かつての中田英寿や本田圭佑のような、強烈なスター性をもった選手が不在であること。
以上は、日本代表を取り巻く状況である。しかしながら、この状況は日本だけの話ではなさそうだ。ドイツでサッカー指導をしている友人に聞いたら、向こうもあまり盛り上がっていないという。友人いわく「僕の周りでも『カタールに行く』と明言している人は、ひとりもいない」そうである。
今大会が不評な原因のひとつに「11月開催」というものが間違いなくあると思う。これまでW杯は第1回大会から、基本的に6月から7月の間に開催されてきた。なぜならヨーロッパでは、5月にシーズンが終わるからだ。ところが今回は11月開催ということで、シーズンを途中でぶった切る形で、W杯が行われる。これが欧州のサッカーファンの不評を買っているのは間違いない。
ではなぜ、今大会は11月に開催されるのか。それは6月のカタールは暑すぎるからだ。日中の気温は50度近く。とてもサッカーができる環境ではない。
なぜカタールか
つまり「カタールでの開催ありき」で、大会を主催するFIFA(国際サッカー連盟)は11月開催をゴリ押ししたのである。その弊害が、日本のみならず欧州のしらけムードに拍車を掛けている。
そんなカタールでのW杯開催が決まったのは、2010年12月のFIFA理事会。この時は18年と22年、2大会を決定する投票が行われ、それぞれロシアとカタールが選ばれている。このうち22年大会について、最後まで競り合ったのが米国。だが4回の投票では、いずれもカタールが過半数を獲得している。
実は私は「カタールが選ばれることはまずないだろう」と高をくくっていた。理由はいくらでも挙げることができる。
まず、カタールの総人口は300万人で、そのうち9割が外国人労働者。国土は秋田県ほどの小国である。これほど小さな国で、32…
残り2365文字(全文3865文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める