もんじゅ-再処理=次世代高速炉? 日米原発計画は矛盾だらけ 田窪雅文
今年初め、日米で新たな原子炉開発の協定が結ばれた。だが元をたどると、頓挫した旧世代研究開発の焼き直しが「新型」と喧伝されているように見える。
失敗しても「生き返る」高速炉の開発
2022年の元旦、読売新聞が「米高速炉計画に日本参加へ──『もんじゅ』の技術共有、国内建設にも活用」と報じて話題を呼んだ。著名なビル・ゲイツ氏(米マイクロソフト創業者)が設立した米テラパワー社の次世代原発建設計画に日本が参加ということで、特に注目されたようだ。
記事のいうとおり、1月6日には、日米両政府が次世代の原発と目される「高速炉」や「小型炉」の実証での協力を表明。同26日には、テラパワーと文部科学省所管の日本原子力研究開発機構や三菱重工業などが協力覚書を締結した。
覚書に日本側で署名したのは、相次ぐトラブルで頓挫した高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市、廃炉中)を建設・運転した当事者らだ。もんじゅは、使用済み燃料を再処理して取り出したプルトニウムを燃やしながら、消費した以上のプルトニウムを生み出す「夢の原子炉」が技術的に成立し得ることを示すためのものだった。1兆円超をかけた施設だが、1994年の臨界達成から2016年の廃炉決定までの20年以上の間に実際に運転されたのはわずか250日。もんじゅのある福井県の地元紙は、今回のテラパワーとの協力について、「もんじゅの廃炉で地元自治体や住民の期待は一度裏切られたものの『ポストもんじゅ』をにらみ、再び期待感が膨らみ始めている」と報じている。
テラパワーが計画する高速炉「ナトリウム」は運転開始28年、建設費約40億ドル(1ドル=140円換算で約5600億円)の予定だ。エネルギー省が、建設費の半額(上限20億ドル)を払うことになっている。テラパワーは、この炉は「再処理を必要としないため、核拡散のリスクを制限する」という。テラパワーへの開発協力が、「ポストもんじゅ」炉の建設につながり得るのだろうか。
失敗の象徴
原子力技術の誕生からしばらくの間、ウランの資源量は乏しいとされていた。自然界にある天然ウランには、燃料に使える“燃える”「ウラン235」は0.7%しか含まれておらず、原発の数が急速に伸びていくとすぐ枯渇すると危惧された。残りのほとんどは、燃えない「ウラン238」だからだ。
ウランの枯渇を避けるには、原子炉の運転の際に「燃えないウラン238」が中性子を吸い込むことにより燃えるプルトニウムが生まれることを利用し、消費した以上のプルトニウムを生み出す炉を作ればいいと考えられた。プルトニウムを増やすのに都合のいい「高速中性子」を核分裂に利用する「高速(プルトニウム)増殖炉」だ。高速増殖炉の燃料として最初に使うプルトニウムは、普通の原子炉の使用済み燃料を再処理して取り出せばいい、と考えられた。
だが、その後、ウランは当初想定よりずっと多く存在することが判明し、原発数の伸びも鈍化する。一方、高速増殖炉は、技術が難しく経済性もないとして、各国で放棄されていく。ほとんどの高速増殖炉計画で冷却材として選ばれた液体ナトリウムが水や空気と激しく反応する性質を持つのが一因だ。これを劇的な形で示したのが、「もんじゅ」で1995年に起きた液体ナトリウム火災事故だ。
再処理を続けるため
高速増殖炉計画の失敗にもかかわらず、高速増殖炉用に始められた再処理計画が英・仏・露・日の4カ国で続けられた結果、世界の原子力発電用とされるプルトニウムの量は、2020年末現在、合計300トン以上に達している。核兵器1発当たり8キロという国際原子力機関(IAEA)の計算方法を使えば3万7500発分以上だ。英国は、7月17日、58年にわたる原子力発電用の再処理の幕を閉じた。日本は、年間8トン(1000発分)のプルトニウムを取り出す能力を持つ再処理工場(青森県六ケ所村)の運転を開始させようとしている(完工予定が9月7日に延期。次の目標は未定)。
前述の福井県の地元紙の記事は、日本側の日米協力決定の裏には、「(取り出したプルトニウムを再度原発で使うという)核燃料サイクルを維持していると国内外に示す狙いがあった」とする機構出身者の説明を紹介している。高速炉開発が停滞すれば再処理事業の意義が失われるからだという。とっくの昔に意義のなくなっている再処理を続けるために高速炉開発のポーズを示すという話だ(図)。
仏日両国はプルトニウムを劣化ウランと混ぜて「混合酸化物(MOX)」燃料として普通の原発で使っているが、不経済なうえ、消費量は限定的だ。
米国では政策変更
米国にとって、1974年にインドの「平和的核爆発」実験で使われたプルトニウムが、米国の協力の下で進められていた原子力発電用という名目の再処理計画で取り出されたものだったことは衝撃だった。77年に登場した米国のカーター政権は再処理政策の見直しを実施し、その結果、再処理・高速増殖炉計画は、「核拡散をもたらす可能性がある上、技術的に難しく経済性もない」との理由で、政策変更が決まった。
だが、二つの国立研究所が、高速炉推進計画を復活させようとエネルギー省に働きかけを続けている。64年から94年にかけて液体ナトリウムを冷却材に使った「第2高速増殖実験炉」という実験用施設の運転に関わった「アルゴンヌ国立研究所」(イリノイ州)と「アイダホ国立研究所」(アイダホ州)だ。エネルギー省の原子力推進部門がこれに乗っている。
「ナトリウム」の起源は、上述の「第2高速増殖実験炉」だ。同炉での研究に関わっていた米電機大手「ゼネラル・エレクトリック(GE)」が80年代末に同炉を基礎としたプリズムという設計概念を提唱する。小型の液体ナトリウム冷却高速炉だ。このころには、プルトニウムの増殖が目的ではなく、使用済み燃料の中にあるプルトニウムなどウランより重くて長寿命の元素を燃やして毒性を減らすことへと力点が移されていた。「高速増殖炉」もんじゅも、いつの間にか、同様の役割を持つ「高速炉」として喧伝(けんでん)され始めた。これについては、15年11月、更田豊志・原子力規制委員会委員長代理(当時)が、現実の技術レベルを無視しており、「民間の感覚でいえば誇大広告」と批判している。
プリズム計画の方は、GEと日立製作所が07年に設立した「GE日立ニュークリア・エナジー」が引き継いだ。
そして18年11月、上述のアイダホ国立研究所が、各種高速炉のさまざまな材料の試験などに使う「多目的試験炉(VTR)」建設のために、GE日立のプリズム計画を選ぶ。20年1月には、GE日立とテラパワーが、VTRの設計・建設で協力と発表。続いて、同8月に両社がプリズム計画に基づく次世代の原子炉(のちの「ナトリウム」)の開発で協力を発表。10月にエネルギー省が支援対象の一つに両社開発の「ナトリウム」炉を選ぶ、という流れだ。
「ナトリウム」は、その名が示す通り、冷却材に液体ナトリウムを使う原子炉だが、プリズム計画で構想された原子炉やVTRとは異なり、燃料はプルトニウムではなく、ウラン235の含有率を通常の原発の3~5%をより高い20%弱にまでにした「高含有低濃縮ウラン」(金属)だ(20%以上だと核兵器に直接使える「高濃縮ウラン」となる)。使用済み燃料は、そのまま地下処分場に入れるという。
冒頭で述べたように、テラパワーは、「ナトリウム」は「再処理を必要としないため、核拡散リスクを制限する炉」だとうたっている。この炉の開発に参加するのは日本の再処理政策の誤りを認めることになるのではないか。
雲行きの怪しい計画
「ナトリウム」の計画自体、難航している。VTRは、31年完成の予定だったが、米エネルギー省が22年度予算案で、建設決定を27年まで延期することを示唆した。28年完成予定の「ナトリウム」で使う材料の試験などを実施するはずのVTRが、「ナトリウム」より遅れて動き出すのではつじつまが合わない。しかも、どちらも建設するのはGE日立とテラパワーだ。このため、米連邦議会は22年度のVTRのための予算をゼロにする。復活の見通しは明るくない。
日本は19年6月、米国とVTRの開発協力覚書を交わしている。日本政府は、16年のもんじゅ廃炉決定に際して、フランスの高速炉開発計画に参加すれば、もんじゅがなくとも高速炉開発に支障はないと主張していた。そのフランスの計画が無期限延期となった後に、くら替えしたのがVTRだ。
また、米国には、エネルギー省が推進しようとしている各種高速炉に必要な20%弱の低濃縮ウランの製造施設がない。推進派も、現在の燃料製造計画は、28年に完成予定の「ナトリウム」用燃料の調達期限(25年)には間に合わないと認めている。
“恋は盲目”
国の原子力政策などを審議する原子力委員会の岡芳明前委員長は18年に、現在の状況を予言するかのような発言をしている。
「研究費をもらう側が、意見を集めて政策を決める時代は終わりである。国が開発して民間が使う時代(原子力国産化時代)は、はるか昔に終わっているのに、いまだこのような意識が原子力関係者に残っているのはいかがなものであろうか。……(新しい炉が使われるためには実用化・商業化・経済性のハードル)「死の谷」を超える必要がある。超える責任は国ではなく、開発者にある。……推進側は研究開発予算獲得のため、研究開発の理由づけをしがちである。これを『為(ため)にする議論』という。長年研究していると愛着ができて、好き嫌いで考えてしまっているのに気がつかない場合もある。好き嫌いは恋愛と同じで議論できない」
「為にする議論」を黙って見てはいられない。
(田窪雅文・ウェブサイト「核情報」主宰者)