再エネ急増と電力自由化が電力不足を招いたからくり=荒木涼子/和田肇
電力不足が日本を襲っている。オイルショック以来の危機だ、との声もある。が、ピンチはチャンス。商機をものにしようとする企業の取り組みを追った。>>>特集「電力危機に勝つ企業」はこちら
オイルショックを思い出せ!半世紀ぶりのチャンス到来
梅雨明けからの異常な猛暑と同時に、日本列島を電力逼迫(ひっぱく)が襲った──。6月27日、東京電力管内は過去に例を見ない記録的な猛暑となり、最大需要電力が5254万キロワットを記録。過去10年間の6月の最大需要電力(18年、4727万キロワット)を1割以上も上回った。その後も、5238万キロワット(28日)、5296万キロワット(29日)、5487万キロワット(30日)を記録。結局、日本列島は9日連続の猛暑日(最高気温35度以上)となり、1875年の観測開始以来最長となると同時に、電力も綱渡りの状態が続いた。
異例の高水準で幕を開けた今夏だが、経済産業省の幹部らが気をもむのは今冬だ。過去2回(2020、21年度)の冬のピーク時の電力需要が「半端なく」(同省幹部)増えているという。20年冬は全国10エリアのうち7エリアで、21年冬も4エリアで想定最大需要電力を実績が上回る事態が発生していた。
今冬は、中部~九州電力では、休止中だった火力発電所の再稼働などで供給不足分をカバーできそうだが、東電は再稼働できる発電所が少なく、供給余力として最低限必要とされる「予備率3%」を確保できない状況だ。このため経済産業省では、電力使用制限令の発動も視野に入れている。
過去2年といえば、新型コロナウイルス禍でリモートワークが進んだ期間で、同幹部は「その影響が大きい」としつつも「直接的な要因こそ異なるが、背景には『自由化』も含めた構造的な変化がある」と指摘している。背景とは何か。源流をたどると、11年3月の東日本大震災にたどり着く。
穴埋めしたはずが……
震災では、東北と関東の火力発電所の一部が損壊し、東北電力と東電の原発も多くが停止したため、東北と関東の電力需給は逼迫した。東電管内では被災地の茨城県を除いて3月14日から28日にかけて計画停電を実施。加えて、以後、政府の方針で国内の原発は全て停止した。需給逼迫状況が続いたことから、同年7~9月、東北電・東電管内において、1973年の石油危機以来となる電力使用制限令が出された(他電力会社管内は電気事業法に基づく節電要請となった)。
以降、火力発電所の増設や稼働前倒しなどの対策に取り組みつつも、電力逼迫状況は変わらず、15年まで毎年夏季と冬季に節電要請が行われている。
しかし、供給力が増加して需給は改善に向かい、16年からは節電要請が出されなくなった。
需給が改善した背景には、12年からスタートしたFIT(固定価格買い取り制度)による再生可能エネルギー(再エネ)の急速な拡大(主に太陽光発電)、電力自由化に伴う新規参入者(新電力など)による火力発電所や再エネ発電所の新設、電力各社間の積極的な電力融通などがある。これらが原発停止分の穴埋めとなった。
ところが、20年12月~21年2月の東・西日本地域、22年3月22日の東北電・東電管内、同6月27~30日の東電管内と最近、頻繁に逼迫するようになる。この背景こそが、原発の長期停止、および再エネの急増と電力自由化に起因した火力発電所数の減少という「構造的な要因」と資源エネルギー庁は指摘している。
福島原発事故を契機に、全ての原発が長期停止する状況が明確になると、多数の石炭・天然ガス(LNG)火力発電所の新設計画が登場した。だが、再エネの急速な拡大で火力発電所の稼働率低下(収益悪化)が予想され始め、新設計画からの撤退が起きた。既存の稼働年数が経過した老朽火力発電所も、電力自由化で導入された卸電力市場で、再エネ拡大によるスポット電力価格低迷の影響を受けて採算性が悪化。老朽火力の休廃止も加速した。
この結果、資源エネルギー庁の7月20日の公表資料によると、17~21年に新設された火力発電所は1413万キロワットだったのに対し、同時期の廃止火力発電所は1852万キロワット。22~26年は新設計画1141万キロワットに対し、廃止計画2190万キロワット。27~31年は新設57万キロワットに対し、廃止1107万キロワットに。17~31年の間に、廃止から新設を引いた火力発電所の純減は、2538万キロワットにも達する。
曖昧なままの原発
エネ庁では対策として、▽検討中の脱炭素電源の採算確保のための新制度に火力発電を含める▽一定期間稼働できる休止中火力発電の確保(予備電源確保)▽容量市場の着実な運用▽蓄電池・水素活用▽揚水発電の支援──などを挙げている。日本の電力供給は、電力自由化と安定供給、脱炭素を同時に成り立たせることが求められる時代に入りつつあるが、戦後から現在まで時間をかけて作られてきた電力需給構造は簡単には変わらないのが現状だ。
加えて、「原発の議論を曖昧にし、中途半端にしていることで構造改革が進まない」と、エネルギー問題に詳しい橘川武郎・国際大教授は指摘する。政府は21年秋にエネルギー基本計画を3年ぶりに改定したが、原子力については旧計画をほぼそのまま踏襲し、抜本的な議論を避けた。
福島事故前の10年度、原子力は総発電量の25%を占めていた。しかし、事故で状況が一変。その後も東電柏崎刈羽原発で不正入室などのトラブルが相次ぎ発覚するなどして、再稼働にこぎ着けた原発はわずか10基だ。20年度速報値で総発電量に占める原発の割合は4%まで下がり、「基幹エネルギー」としての役割を果たせずにいる。
サハリン2
基本計画では、原発について「必要な規模を持続的に活用」との表現が加えられたものの、「新増設」の記述は見送られた。30年度の電源構成目標も20~22%という従来の目標を据え置いただけだ。これは30基程度の稼働が前提で、安全審査も進まない中、達成は危ぶまれている。橘川教授は「政府の立ち位置がはっきりしないと、電力会社は動きようがない」と話す。
さらに電力業界を悩ませるのが、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰と、エネルギー安全保障の見通しが不透明になったことだ。侵攻後に欧米諸国と共に対露制裁を科した日本に対し、ロシアは反発。6月30日にはプーチン大統領が、日本企業が出資する極東サハリンの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の事業をロシアが支配下に置く新会社に移管する大統領令に署名するなど、揺さぶりを強化している。
「今は石油危機以来の危機。危機の今こそ、社会構造を大きく変えるチャンス」と、脱炭素の政策に詳しい諸富徹・京都大教授は話す。「ガソリン価格が高騰しているからといって、消費者対策で助成しても意味がない。価格が上がれば、結局は節電、省エネを促す。短期的には苦しくても、結果的には脱炭素社会へつながる。短期的視野のままでは危機をうまくチャンスに転換できない」と指摘する。
ピンチを商機に変える──。70年代のオイルショック時、省エネ技術を磨き、日本の自動車メーカーは世界に飛躍した。それから半世紀、再び訪れた危機をチャンスに成長を目指すたくましい企業が登場している。今回の特集ではこれらの企業を紹介する。
(荒木涼子・編集部)
(和田肇・編集部)