経済・企業

中国独走 EV輸出大国の地位固めへ 湯進

工場から出荷されるNIOの大型SUVタイプのEV NIO提供
工場から出荷されるNIOの大型SUVタイプのEV NIO提供

 中国は欧州市場に続き、東南アジア、そして日本にも触手を伸ばし始めている。

今年は世界販売600万台

 中国の電気自動車(EV)輸出台数が2021年に前年比2.7倍の50万台、22年1~8月にはすでに54.8万台(昨年通年の水準)と世界最大となった。欧州向け輸出台数の伸びが顕著で、1~7月の中国のEV輸出全体の半分を占めた。

 小鵬汽車(X−PENG)は21年にオランダのアムステルダムに欧州本部を設置し、上海蔚来汽車(NIO)はノルウェーのオスロにサービスセンターやEV充電施設を展開し始めた。

 大手自動車も欧州に攻め込む。長城汽車は、22年にドイツのミュンヘンとベルリンにブランド体験センターを設置し、SUV(スポーツタイプ多目的車)タイプのプラグインハイブリッド車(PHV)とEV「ORAシリーズ」を投入する予定だ。上海汽車は欧州に「MG」ブランドのEVと「MAXUS」ブランドのEV商用車を投入し、BYDは21年にノルウェーでEV「唐」を発売した。

 EVの車種がまだ少ない欧州メーカーの間隙(かんげき)を突く中国勢の戦略が実を結びつつある。

東南アジアにも輸出

 地政学リスクを考慮してきた中国の自動車メーカーは、EV事業を拡大してきた欧州での販売を強化しつつも、東南アジアにも照準を合わせている。

 地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の発効に伴い、中国メーカーは東南アジアで低価格のSUVや商用車を販売すると同時にEVも積極的に投入している。日本車の牙城といえる東南アジア市場への攻勢により、今後は中国系部品メーカーも進出しそうだ。

 さらに世界の自動車メーカーにとって「難攻不落の市場」といわれてきた日本にも、中国製EVが浸透し始めている。EVバスを販売するBYDをはじめ、商用目的で中国製EVを日本に輸入する企業が増えている。BYDは23年にEV乗用車の3モデルを日本に投入し、25年には直販店を100カ所展開する計画を発表した。

 中国各社の海外販売目標をまとめると25年に500万台、30年には1000万台が視野に入り、その3分の1がEVになる時代が来るだろう。BYDは22年9月16日時点で、時価総額で独フォルクスワーゲン(VW)を抜き、世界自動車業界第3位に躍進(表1)。時価総額世界トップ20の自動車メーカーのうち、中国は5社が入っている。迅速なEVシフトを株式市場は評価している。

 中国国内でもEVの販売は依然として好調だ。コロナ禍前の19年は97万台、それが21年には291万台、今年1~8月には304万台となった。22年通年の販売台数は約600万台に達し、世界市場全体の5割超を占めると予測される。

 自動車各社がEV開発に注力し、小型・低価格車から中大型・高級車までさまざまな新モデルを投入したからだ。消費者にとってクルマ選びの選択肢が増えたことがEV需要増加の背景にある。20年に米テスラが上海工場で高級EVセダン「モデル3」を生産し、新興のNIO、X−PENGも自動運転やエンターテインメントなどの機能を使いやすくした高級EVモデルを投入した。

 低価格・小型EV市場は、上汽通用五菱汽車(上海汽車、米ゼネラル・モーターズ〈GM〉が出資)が投入した60万円程度の小型EV「宏光MINI」が「暮らしの足」として人気を集めた。

 これまで車載電池のコスト高により、中間価格帯(200万~400万円)の大衆向けEVは内燃機関車との競争で苦戦し、高級EV、短距離移動の低価格EVの二極化の状況だった。

 これを打開しようと大手自動車がコストパフォーマンスの高いPHVやEVを投入。BYDが21年に投入したPHVの「宋」と「秦Plus」の2車種は、今年1~8月にそれぞれ20万台を超え、EVやPHVなど新エネルギー車(NEV)の販売台数で2位、3位の座に着いた。広州汽車傘下の広汽埃安新能源汽…

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週刊エコノミスト

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