週刊エコノミスト Online学者が斬る・視点争点

「あなたの電力使用量は他の人より多めです」“節電ナッジ”の思わぬ副作用 村上佳世

 電力使用量を「人と比べる」ことで節電を促す。ただしやり方次第では逆効果になることも。

急な節電要請では逆効果になることも

「あなたの電力使用量は、よく似たご家庭と比較して、20%少なめ(多め)です」

 このようなリポートを、電力会社から受け取ったことはないだろうか。毎月の電気代請求時にこんな情報が付されれば、「エアコンが古いかも」「テレビのつけっぱなしが過ぎるかな」などと、家電を買い替えたり生活習慣を省みたりするきっかけになるかもしれない。

 これは、自身の行動を周りの人の行動と比較することで、他者の行動をある種の「社会規範」と感じる傾向を利用して、社会的に望ましい行動を促す「社会比較ナッジ」と呼ばれるものだ。「ナッジ」とは、金銭的なインセンティブ構造を大きく変えることなく、人の行動特性や素養を踏まえて行動を後押しする工夫である。

 米国の有名な実験では、このようなリポートを受け取った家庭は受け取らなかった家庭と比べ、平均で2%の使用量減少がみられた。日本でも、同様の効果が環境省の事業で報告されている。どちらの実験も、比較情報のグラフ化に加え、家電の買い替えや日常の行動変容で期待できる光熱費の節約額などを情報提供している。「周りと比べる」ことで自分の使用量を客観視し、月額電気代を目にするタイミングで節電アドバイスを受ける。このような情報介入によって、緩やかに省エネ型ライフスタイルが促されるようだ。

 この手のナッジは、電力使用量が多めの家庭で特に高い効果が見られる。参照点(自分より省エネ型の他者)に近づこうとする同調効果に加え、このような家庭では古い家電の買い替えなどで期待できる光熱費の節約幅が比較的大きく、節電インセンティブも高いのだろう。逆に、もともと使用量が少なめの家庭では、同調効果で使用が増える(他者に寄る)というブーメラン効果があり得るが、「イイネ!」のような称賛を加えることで、そのような逆効果を防げることが知られている。

「ピーク」を抑える

 月々の電力使用量のように「総量」を減らすのは望ましい。他方で、電力需給が逼迫(ひっぱく)する「ピーク時」に狙いを定めて使用を抑えるインパクトもまた大きい。

 電力はためられないため、使う時に使う量だけ発電するのが原則だ。事業者は毎日、時間単位で需要量を予測し、計画的に発電している。設備は需要のピーク(猛暑の昼や寒波の晩に予想される最大電力)に合わせて建設・維持されるので、ピーク時の電力需要をうまく管理して平準化できれば、余分な設備投資を減らせ、社会全体の発電費用が安くつく。逼迫時の停電リスク緩和のため瞬間的に古い火力発電所を稼働させるような非効率な発電の頻度が減れば、単位(kWh)当たり二酸化炭素(CO2)排出量も少なくなる。

 さて、このようなピーク時の節電にも、冒頭の社会比較ナッジは有効だろうか。筆者は、京都大学の研究チームで、この疑問を実験的に検証した。実験では、月々のリポートと同じ形式で社会比較情報をグラフ化して提示し、似たような家庭と比べてピーク時の使用量が何%多いか(少ないか)を可視化した。その上で、家電利用…

残り1669文字(全文2969文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で過去8号分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

2月7日号

賃上げサバイバル16 大企業中心の賃上げブーム 中小の7割は「予定なし」 ■村田 晋一郎19 インタビュー 後藤茂之 経済再生担当大臣 賃上げは生産性向上と一体 非正規雇用の正社員化を支援20 「賃上げ」の真実 正社員中心主義脱却へ ■水町 勇一郎22 賃上げの処方箋 「物価・賃金は上がるもの」へ意 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事