地域を活性化する「自治体新電力」 杜依濛
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自治体新電力は地域の雇用創出などで期待される一方、「地産電力」の確保が課題となっている。
低い「地産エネルギー」比率がネック
自治体が出資し、限定された地域を対象に電気供給を行う「自治体新電力」が近年、注目されている。自治体新電力は、地域による地域のための事業を狙いとし、地域の持続可能な発展、すなわち、SDGs(国連の提唱する持続可能な開発目標)に貢献しようとするもので、全国各地で設立が相次いでいる。
きっかけとなったのは、2011年の東日本大震災と、それに続く福島での原発事故だ。これを受け、災害時の安全・安心の確保、あるいは被災地の復興における産業創出・雇用拡大の観点から、再生可能エネルギー(再エネ)が国策として、重視されてきた。12年には再エネの固定価格買い取り制度(FIT)が導入され、大規模な太陽光発電の設置が進んだ。これらの多くは、設置地域外の大企業による大規模開発であり、再エネ開発による利益は地域外に流れ、地域住民や地域企業との関わりが弱い傾向にある。しかし、一方で、FITによる再エネ発電事業の採算性の向上は、地域の事業者や住民による発電事業への参入を促すことにもなった。
自治体新電力事業者が取り組んでいる地域課題には、次のようなものが挙げられる(図)。
特に重要なのは、地域経済に関する課題だ。事業による地域産業の振興効果と雇用創出効果が地域経済の衰退と労働人口の流出の緩和に貢献できるほか、域外に流出していた資金を、域内で生産し消費する「地産地消」の取り組みを進めることによる地域内の経済循環も注目される。
近年、世界各地で地球温暖化が要因とみられる気候変動の進行により、自然災害が頻繁化している。政府が50年までに温室効果ガス排出実質ゼロを目指す目標に向けて、環境省が推進する「ゼロカーボンシティ」を宣言する自治体が増えている。22年9月末で東京都、京都市、横浜市をはじめとする785自治体が50年までに二酸化炭素排出量をゼロにすると表明した。この目標を実現するためには、地域主導型再エネ事業に取り組んだ自治体新電力の導入拡大が必要とされる。
収益を「児童の見守り」に
本稿では、そのモデル都市として奈良県生駒市を紹介したい。19年7月に、内閣府が認定するSDGsへの取り組みに優れている自治体「SDGs未来都市」に選ばれ、同年11月にゼロカーボンシティ宣言を行った。生駒市では、地域と連携した排出削減事業を全市的に展開しつつ、地域経済循環を促すため、自治体新電力の創設に取り組んだ。設立時の出資比率は生駒市が51%、そのほか、大阪ガス(出資比率34%)、生駒商工会議所(同6%)、南都銀行(同5%)、そして一般社団法人市民エネルギー生駒(同4%)が出資し、17年7月、「いこま市民パワー株式会社」を設立した。
いこま市民パワーでは、調達電源に占める再エネ比率が8割と高く、市内10カ所以上(20年9月時点)の太陽光発電所、小水力発電所、木質バイオマス電源から電力を調達している。生駒市内の公共施設・民間事業者への年間総電力供給量は2万7418メガワット時(20年度実績…
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週刊エコノミスト
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