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国際・政治 歴史に学ぶ 戦争・インフレ・資本主義

今の日本経済が80年前の戦時に似ていることの怖さ 平山賢一

戦時は物資が不足
戦時は物資が不足

 政府による市場介入は、見かけ上の金利や株価の安定を維持できても、投資家の富を実質的には毀損してしまう。さらにインフレは国民に大きな負担となる。>>特集「歴史に学ぶ 戦争・インフレ・資本主義」はこちら

市場介入は指標を安定させてもインフレをもたらす

 長期化するロシアとウクライナの戦い。局地的な戦争とはいえ、エネルギー・農産物価格などの上昇をきっかけに、その影響は世界的インフレーション発生のきっかけの一つになっている。

 歴史を振り返ると、欧米を席巻している物価上昇の大波は、1940年代や70年代を想像させまいか。なかでもモノ・ヒト・カネ・データの四つの壁が高く立ちはだかり、世界の分断が極端に進んだという点では、40年代前半にかけてのブロック経済化の方が近いかもしれない。

 政府・中央銀行が金融市場に介入し、国債利回りを低下させた後にインフレーションが発生しているというパターンも40年代にそっくりだ。そこで以下では、今後の経済を展望する上で、40年代に日本が何を経験したのかを振り返り、再確認してみたい。30年代から40年代前半にかけての戦時経済は、どのような経過をたどったのか?

市場の警告発せられず

 戦時体制で必要とされたのは、戦争のための資金である。政府は、大量に国債を発行して巨額資金の調達を図る。

 日露戦争期の日本政府は、国内民間資金が限られたこともあり、英国などで外貨建て日本国債を発行して資金調達したが、30年代には、国内で国債を発行して、蓄積されてきた民間資金を吸収した。

 だが、民間貯蓄にも限度があることから、36年末から国債価格が下落し、国債利回りが上昇しかけたため、日本政府は資金調達コストが上昇していく危機に直面した。

 そこで、日本銀行や大蔵省預金部(主に郵便貯金を原資とした実質的な政府の金融機関)は、国債市場に介入して国債価格を買い支え、人為的に国債利回り(金利)の上昇を抑え込んだのである。戦時体制への注力が最優先され、すべての政策が総動員されたといってよいだろう。

 さらに国債消化を円滑に進めるために、各種の国債投資優遇政策が実施され、国債利回りは3.6%強の水準でほぼ固定化された。現在と比較すれば、高い利回り水準だが、戦前としては最低水準での金利の「くぎ付け政策」だった。

 本来であれば、政府の無茶な国債発行増に対して、金融市場は、国債利回り上昇(国債価格下落)をもって警告するはず。だが、政府が国債利回りを強力に抑え込んでいたため、警告は発せられることはなく、45年には国債発行残高が、経済規模の2倍を上回るまで拡大。やがて、戦時の生産拡充と低金利の維持という組み合わせは、物価上昇という痛みを日本経済にもたらすのであった。

上海の物価は1000倍

 戦時体制初期の国民の生活は、その戦費を国民貯蓄の範囲内で賄うことができたため、物価上昇という痛みを伴わずに済んで…

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