インフレはグローバルでもう終わっている 藻谷俊介
グローバルな視点で観察すれば、構造化するどころか、インフレ(物価上昇)はもう終わっている。図は当社で毎月計算しているリアルタイム世界インフレ率(主要17カ国の合成消費者物価指数の季調3カ月変化率年率換算値)だが、すでに過去のレンジの範囲内に戻って正常化している。
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新興国を含む世界全体としては十分な供給余力があり、インフレが常在しにくい構造が維持されているからだ。足元ではこのうち、欧州だけが2桁インフレだが域内での戦争とエネルギー不安という特殊事情が作用しているからである。
もともと今の構造インフレ論は、欧米先進国にだけ適用されうるローカルな議論であることを忘れてはならない。米中対立などの国際的対立軸の顕在化により、コストの安い国に広げたサプライチェーン(供給網)をもう一度、自国あるいは他の先進国に戻す政治的圧力が生じ、それがコスト増を招くというシナリオは、あくまで先進国サイドの話だ。だが、今や先進国は世界の一部に過ぎない。
グローバリズムの恩恵
日本も欧米先進国側にいる自意識を持っているのだが、日本の足元のインフレは主に円安効果であって永続的ではない。日本はもともと低インフレ体質であり、欧米とは少し立場が違う。ただ、そんな日本でも和製英語の「ゼロ・チャイナ」という題字が躍り、間違いだらけのグローバリズム、という雰囲気作りがされている。
しかし、今の便利な生活に潜むグローバリズムの恩恵を、空気のようなものと勘違いしてしまっている可能性はないか。安価で十分な品質の衣料、精巧なアイフォーン、外食では輸入食材とワインを楽しみ、割高な国産電化製品や国内農産品には目もくれなかったのではないか。
グローバリズムは、簡単にいえば発展途上国に豊かさを分配する地球的システムであり、アジア、アフリカに貧困から離陸する国々を生んできた。逆にそれらの成…
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週刊エコノミスト
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