経済・企業

過去40年間のM&Aが示す大手邦銀に本当に必要な戦略 吉沢亮二

今後はデジタル関連のM&Aが注目 Bloomberg
今後はデジタル関連のM&Aが注目 Bloomberg

 大手行は成長戦略の経営資源の投入先として海外シフトを強めた。今後は、フィンテック(金融とITの融合)に対応する必要性から、デジタル関連のM&Aが増える可能性が高い。

求められるのは環境変化への柔軟な対応力

 筆者が考える、邦銀全体に共通する国内業務に関する課題は、次の三つである。

 国内民間部門が資金余剰であり、国内の貸し出し需要が限定的。収益性が国際比較において低く損失吸収能力に劣る。国内市場が人口減少かつ少子高齢化傾向にある。

 第一の課題。銀行の提供する商品の代表格である「貸し出し」の需要が、長期的にどのように変化しているのかみてみよう。貸し出し需要を左右する要因はいろいろあるが、単純化するために顧客の資金が余っているのか(資金余剰)、足りないのか(資金不足)に限ってみてみたい。

 図1は、1980~2021年度の民間(企業・家計)部門の資金過不足状況の推移を示している。この図は、個人部門は一貫して資金余剰にあり、また企業部門も98年度以降、マクロ的には一貫して資金余剰の状態になったことを表している。つまり、家計部門のみならず企業部門のお金が余っており、銀行にお金を借りる必要があまりないということだ。

東京の人口減少

 第二の課題は低い収益性だ。格付け会社の観点からは、収益性という指標は極めて重要な意味をもつ。なぜなら、収益性(収益力)は損失吸収能力における大黒柱であるからだ。収益性が高いほど、危機が訪れた場合に生き残る可能性が高くなる。つまり、信用力が高いということができる。

 図2は、銀行の収益に関する国際比較を示したものだ。サンプル行にはG-SIBs(グローバルなシステム上重要な銀行)に国際機関(FSB〈金融安定理事会〉)により指定されている30社のうち、日本の3行と欧米主要行の総資金利益率(ROA)と純資金利ザヤ(NIM)を示したものだ(各21年度)。ROAとNIMにみる邦銀の収益性は、米銀より大幅に低く、欧州銀とはおおむね同じか下回る水準にあった。しかし22年に入り、欧州銀の収益力は、政策金利の上昇を背景としたNIMの改善により、大きく回復基調にある。

 一方、欧米と異なり日銀は低い政策金利の水準を維持しているため、22年度に入っても邦銀の国内貸し出し利ざやはほとんど改善していない(むしろ地銀を含む全銀行のストックベースの貸出金利は低下)。

 第三の課題。人口減少と少子高齢化については、あまり解説を加える必要はなかろう。ただし、人口減少問題は、この問題とは無縁と思われる東京にもやがて影響が及ぶ可能性が高いことは付言しておきたい。東京の人口増加・維持は、地方からの人口流入(社会増)に支えられているからだ。

 日本の金融市場には、このように三つの根源的な課題がある。このため、大手行が成長戦略のため海外シフトを進めるのは自然の流れであろう。事実、現在の3メガ銀行の貸出残高に占める海外貸し出しの割合はおおむね3~4割程度になっている(貸し出し収益全体への寄与度はさらに大きい割合だ)。

 また、収益源の多角化を目指し、グローバルな市場関連業務からの収益増強にも継続的に力を入れている。この動きは、外貨調達の問題やグローバル市場の逆回転(市場の混乱や国際市場の分断化など)が大きな障害として顕在化しない限り、経済合理性にかなうものであるため、しばらく継続するものと思われる。

フィンテック化

 ここからは、過去における大手行のM&A(企業の合併・買収)の歴史を整理してみたい。過去の実績とその背景を整理することで、M&Aの将来像も浮き彫りになると考える…

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週刊エコノミスト

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