経済・企業

EV大国・中国で始まったリチウムと利益の争奪戦 湯進

車載電池で独自路線の広州汽車。写真はAION LX PLUS 筆者撮影
車載電池で独自路線の広州汽車。写真はAION LX PLUS 筆者撮影

 今や世界最大の電気自動車(EV)市場となった中国で業態間の利益争奪戦が起きている。サプライチェーン全体の再編に発展する可能性もある。

低い自動車・電池メーカの利益率

 2022年の中国の電気自動車(EV)生産は550万台を超えたと見られ、世界のEVの過半を超える世界最大の市場に成長した。中国では、感染拡大を抑える「ゼロコロナ政策」が新車販売に影響を与えたものの、EVの販売は依然として好調で、22年1~11月には前年同期比1.9倍の473万台に達した。この需要の急拡大と世界的なインフレの影響で自動車から部材、原材料に至るサプライチェーン全体のコストが急上昇している。

 22年11月9日、上海で開催された「中国自動車フォーラム」で、国有大手自動車メーカー、長安汽車の朱華栄董事長は「半導体不足と電池の価格高騰によって今年1~9月に60.6万台の減産を余儀なくされた」と話した。

 電池の価格高騰に悩まされているのは長安汽車だけではない。今年7月、車載電池世界最大手の寧徳時代新能源(CATL)がリチウムイオン電池を値上げしたことに対し、大手自動車メーカー広州汽車の曾慶洪董事長は「EVコストの4~6割が電池だ。我々はCATLのために働いている」と苦言を呈した。「自動車メーカーは誰のために働いているのか」という声に対し、国有大手自動車、東風汽車の竺延風董事長は「投機的売買を取り締まる政策の発動も必要だ」と指摘した。

もうけているのは資源

 議論の背景には、リチウムイオン電池の原材料となるレアアース(希土類)や部材価格が上昇し、自動車メーカーに限らず電池メーカーもコスト上昇分の吸収に苦労している実情がある。

 とくにリチウムイオン電池の生産に欠かせない炭酸リチウムの価格は22年11月7日には史上初のトン当たり61万元(約1220万円)に達し、実に2年前(20年末)の10倍超となった。

 電池メーカーは相次ぎ電池価格を値上げする一方、部材の市況に合わせた変動価格で自動車メーカーと中長期の契約を締結した結果、今度は電池部材企業の収益が飛躍的に伸びている。EVサプライチェーン全体でみると、最終製品であるクルマ、電池、電池部材、資源開発と川上に行くほど利益率が高くなっているのだ(図)。

 主要企業の22年1~9月期の純利益率平均をみると、完成車が5.2%、電池が5.3%であったのに対し、リチウムイオン電池の4大材料である正極材、負極材、セパレーター、電解液の主要部材メーカーでは純利益率の平均が17%に達し、特にセパレーターと電解液の好調さが目立つ(表2)。

 世界最大の車載電池メーカーとなったCATLは…

残り1439文字(全文2539文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事