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法務・税務 キャッツ事件

「人質司法にNo!」元会計士が再審請求した深いワケ 稲留正英(編集部)

会見に臨む細野祐二氏(右)と弘中惇一郎弁護士(2022年12月20日、東京地方裁判所内の記者クラブにて)
会見に臨む細野祐二氏(右)と弘中惇一郎弁護士(2022年12月20日、東京地方裁判所内の記者クラブにて)

 粉飾決算で有罪が確定した元会計士が、新証拠を基に再審請求した。

会計処理の妥当性で新証拠

 害虫駆除会社「キャッツ」の粉飾決算事件で、粉飾決算に加担共謀したとして有罪が確定した元公認会計士の細野祐二氏が2022年12月20日、無罪を主張し、東京地裁に再審請求した。

 この事件は、2000年ごろから仕手筋に株式を買い占められたキャッツを巡り、有価証券報告書の虚偽記載があったとして東京地検特捜部が摘発したもの。具体的には、大友裕隆社長(当時)が02年2月、キャッツ株を買い戻すためキャッツから60億円を借り受けたが、それを、①キャッツの02年6月中間決算の貸借対照表で「貸付金」とせずに「預け金」と記載した、②大友氏が買い戻したキャッツ株を基にポイントカード運営会社「ファースト・マイル」を買収したが、ファースト・マイル株の取得原価が多く見積もっても6億5000万円しかないのに、02年12月期の貸借対照表に60億円と過大計上した──ことが有価証券報告書の虚偽記載の罪に問われた。

 東京地裁で行われた裁判では、会計基準におけるこれらの会計処理の妥当性は争点にならず、大友社長、当時の専務、常務の経営陣3人が、検察に「細野氏に粉飾決算を指導された」と供述したことで、細野氏は粉飾決算の共同正犯に問われ、06年3月、懲役2年、執行猶予4年の有罪判決を受けた。その後の控訴審でも、事実認定は覆らず、10年5月に最高裁で有罪が確定した。

刑法学者からアドバイス

 細野氏によると、今回、再審請求を決めたのは、20年3月、刑法学者の松宮孝明・立命館大学教授から、「会計基準にのっとって決算が組まれているという鑑定意見が出れば、明白な新証拠となり、再審事由となる」とアドバイスを受けたことがきっかけという。

 細野氏は同年5月に弘中惇一郎弁護士に弁護を依頼、焦点となった二つの会計処理について、「適正だった」との意見書を専門家から取得し、今回、新証拠として提出した。

 日本における刑事司法の問題点の一つとして、検察官が作成した被疑者・被告人や関係者の取り調べ調書(検察官面前調書〔検面調書〕)の証拠能力を裁判所が公判での証言より高く認めることがある。犯人摘発を重視する日本の社会的風土と相まって、「人質司法」と呼ばれる取り調べを誘発。キャッツ事件では2審で経営陣3人が、「証言を丸暗記させられ、40回もリハーサルさせられた」などと検察官による証言の強要を認めたが、判決には影響しなかった。

 しかし、旧経営陣が粉飾決算に問われた日本長期信用銀行(長銀)事件では、当時の会計基準に照らして適法だったとの被告の主張が認められ、08年7月、最高裁で逆転無罪判決が出た。また、09年に発生した障害者郵便制度悪用事件(村木事件)では大阪地検特捜部の検察官が証拠を改ざん。11年に発生したオリンパスの粉飾決算事件では無罪を主張した野村証券元社員に対して、966日勾留したことも明らかになった。細野氏は、こうした事例が相次いだことで、「社会が私の話を冷静に聞いてくれる土壌が整ってきた」としている。

(稲留正英・編集部)


週刊エコノミスト2023年1月17日号掲載

キャッツ事件 会計処理の妥当性で新証拠 粉飾決算事件で再審請求=稲留正英

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