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週刊エコノミスト Online 学者が斬る・視点争点

情報は「期待」も「幻想」も膨らませる 村上佳世

 消費者が製品を購入する際、品質をしっかり識別できる仕組みを整備しなければ、市場は失敗する。

消費者の知識量も効果を左右する

 見た目は似ているが、品質の異なる家電が目の前にある。よく壊れるほうを家電L、めったに故障しないほうを家電Hとしよう。「家電Lなら2000円までしか支払いたくないが、確かな品質をもつ家電Hなら1万円まで支払ってもよい」とあなたは思っているとする。しかし今、目の前の家電がどちらなのかを識別できない。こんな時、あなたならどうするだろう。

 人はこのような不確実性を含む製品を前にした時、「これくらいかな」と価値を見積もり、それを手に入れるための費用(製品価格)と比べて、買うべきかどうかを判断する。楽観的な人はこの不確実な家電に対して「7000円まで支払える」と考えるかもしれないし、悲観的であったり家電Lにあたった時の悔しさを強く意識したりする人は「3000円までしか支払えない」と考えるかもしれない。

「これくらいかな」という価値は、目の前の不確実な製品に対してあなたが抱く「期待」であり、具体的には、1万円(家電Hの価値)より安く、2000円(家電Lの価値)より高い値になるだろう。期待より安い価格なら、不確実な家電を購入するだろうし、それより高ければきっと購入しない。

 このような「品質の異なる類似製品が交ざっていて、消費者が識別できない状態」を放置すると、市場の効率性は確実に低下する。なぜなら、メーカーが故障率を下げようとして高い生産費用をかけて家電Hを作っても、そのような費用をかけない(それゆえに故障率が高い)低品質の家電Lと交ざって売られれば、消費者の期待価値が下がってしまい、家電Hは十分な価格で取引されないからだ。

 その結果、高品質の製品は(それを高く評価する消費者がいても)、安い低品質の製品に駆逐されて市場から姿を消す。これがいわゆる「レモンの原理」で知られる逆淘汰(とうた)であり、情報の非対称性に起因する典型的な市場の失敗だ。

 この問題を解決する一つの方法は、消費者が家電LとHを区別できるようにすることだ。類似製品だからと両製品の口コミを一緒に表示してはいけない。消費者が異なる製品として認識できる仕組みを整備すべきだ。

有機農産物で実験・検証

 故障率のように、消費後に「経験」できる品質なら、繰り返し購入したり、口コミを読んで他人と経験を共有したりすることで、消費者は学習して期待を変え、その品質を見分けるようになる。家電の故障や使い勝手は経験できる品質なので、少なくとも長期的には、逆淘汰の問題はなくなりそうだ。

 しかし、世の中には直接的に経験できない品質がある。有機農産物のように生産過程に関わる品質はその一つだ。近年は生産や輸送過程で生じる環境負荷や人権侵害、動物福祉への影響など、店頭に並ぶまでの「ストーリー」を品質の一つとして考慮する消費者も増えている。これらは消費したからといって実感できる品質ではなく、企業からの情報以外にそれを知るすべはない。

 したがって、このような品質では特に、第三者認証やトレーサビリティー(生産流通履歴)などの情報…

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