資源・エネルギー学者が斬る・視点争点

ドイツの卸電力市場で価格高騰が発生した事情 杜依濛

2021年、ドイツで電力価格が記録的に上昇した。ガス価格の高騰と石炭火力への逆戻りが背景だ。

「風吹かず発電量低下」が電力価格高騰に与えた影響はわずか

 欧州各国の卸電力市場価格は、2021年夏から、大幅な高騰を記録した(図1)。21年12月に、ドイツの電力卸売価格が約220ユーロ/メガワット時となり、前年同期の48.4ユーロ/メガワット時と比較して大きく上昇した。背景には、天然ガス価格の高騰、コロナ後の経済活動再開に伴う需要の増大、欧州排出権取引の排出枠価格の上昇などがあると考えられる。22年2月のロシアのウクライナ侵攻以来、欧州のエネルギー価格はさらに高騰した。 ドイツの電力市場では、22年8月には市場価格が約470ユーロ/メガワット時に達し、前年比6倍以上も上昇したことになる。

天然ガス貯蔵不足が直撃

 21年時点ではドイツの輸入ガスの約55%がロシア産で、EU(欧州連合)加盟国の中でロシア産ガス輸入量が最も多い国だった。ロシアに対する依存度が極めて高いことを背景に、ウクライナ戦争以来、ドイツでの燃料価格の高騰が加速していた。ただし、欧州の化石燃料価格はウクライナ危機以前から既に上昇していた。21年春から、北東アジアの天然ガス需要拡大と欧州への寒波来襲により、欧州地下ガスの貯蔵量が例年以下となった。21年9月には欧州全体のガス貯蔵量は貯蔵容量の75%、20年同期の95%に比べ大きく低下した。このようなガス貯蔵不足が、欧州の天然ガス価格の高騰を決定づける背景となった。

 ドイツを含めた欧州の国では、電力価格とガス価格に強い相関が見られる(図1)。欧州各国が過去10年間に電力生産に使用する石炭火力と原子力を大幅に削減した結果、ガス火力の重要性が高まったことがその原因だ。結果として、電力価格が天然ガス価格の急騰に押し上げられ、価格の高騰が発生した。

 ただし、ウクライナ戦争発生前の21年夏から冬にかけて、欧州で電力危機が発生した主な理由は、「再エネへの過度な依存」と「風力発電の不調」だというようなメディアの言説も多くみられていた。欧州各国では再エネへの転換が進んで、石炭からガス、そして風力・太陽光へと緩やかに移行している。ドイツの電源構成を例としてみると、20年に再エネ全体が総発電量に占める割合はおよそ43.7%にも達した。そのうち、風力が23%で、太陽光8.6%、バイオマス7.9%、水力3.2%と続く。

 ドイツでの再エネの拡大をけん引しているのは風力発電だといえる。ドイツのような風力発電への依存度が高い欧州の国では、21年の風況が比較的に弱かったことで、電力不足の状況に陥って、電力価格が高騰したのではないかと推測された。図2で示されているように、19年と20年の風力出力水準に比べて、確かに21年の春先と夏ごろのドイツでは、風力発電の不調が見られた。しかし、価格高騰が発生した21年後半(8~12月)では、例年並みの風力発電による出力水準が確認された。したがって、「風が吹かなかった」ことは、価格高騰の主な原因ではないと筆者は推測した。

 ドイツで電力価格高騰を導いた根本…

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週刊エコノミスト

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