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教養・歴史 書評

80歳全盲著者が視覚障害者の実情と願いをユーモラスに表現 高部知子

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 ずいぶん前に全盲の先生に点字を習ったことがある。今でこそ点字訳はコンピューターの仕事になっているが、昔は「点字翻訳者」という技術者が1文字ずつ訳していたため、1冊の本を点訳するのに膨大な時間を要したものだった。ある日、私は先生に「世間の人に一番サポートしてほしいことはなんですか」と尋ねた。すると、先生は「ほっておいてほしい」と即答された。

 これに驚いて理由を尋ねると、彼女は普段盲導犬を連れて歩いているのだが、街では彼女も犬も全神経を集中させている。その時急に「危ない!」などと声をかけられると、何が危ないのかわからずパニックになってしまうのだという。

 だから、もしも目の前に穴があって私の犬が落ちたとしても「私は犬と一緒に落ちて死にます。それでいいの。そのくらい犬を信じて一心同体じゃないと、街など怖くて歩けないのよ……」と。この言葉を聞いた私は「目からウロコ」どころか、涙でコンタクトレンズを落としてしまっていた。

 こうした経験から『お好み書き 見えない人の「ちょっと世間話」』(水谷昌史著、新評論、1980円)を読んでみた。著者は点字出版界で長年雑誌編集長を務めた全盲の方で、まさに前述した点字翻訳者育成などにも尽力してきたという。本書は著者が続けているコラムを70本程度抜粋したものであり、どこから読んでも読みやすく、話題は映画や小説、スポーツ、コロナ禍、介護ロボットから政治に至るまで多岐にわたる。

 乳児期の種痘で失明した著者は80歳になる現在まで、すべて「聞く」か「触れる」で情報を得ているわけだが、編集者という職業柄、点字や音声を駆使しながら本をたくさん読んできたのだという。それを著者は「腹芸読書」と呼ぶ。

 点字なので、読むのは指先。布団の中で眠くなるまでおなかに乗せた点字本をなぞり読みするのだそう。私も寝る前の読書が習慣だが、この時期、本を持つ手が布団から出ていると冷…

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