映像作家が有名無名さまざまな声を集めて展開する中国通史 加藤徹
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欧米人が書く中国通史は、日本人が書くそれと趣が違う。日本の読者は、故事成語とか三国志とか、それなりに予備知識があり読みたい定番の有名人や事件がある。一方、欧米の読者は漢字も漢文も知らない。著者はかえって自由に書ける。
マイケル・ウッド著、須川綾子訳『中国全史』(上巻3630円、下巻3960円、河出書房新社)の原書名は「ザ・ストーリー・オブ・チャイナ」、副題の直訳は「文明と人々の肖像」。6000年前の仰韶(ぎょうしょう)文化(新石器時代の文化)から、新型コロナウイルス流行後の習近平時代までを、テレビ番組のような筆致で描く。
著者は英国の大学教授だが、英BBCで歴史ドキュメンタリー番組を制作してきた映像作家でもある。著者は言う。「本書の形態については、映像制作の手法を取り入れ、大きな流れを保ちながら、ときには足を止めてクローズアップに切り替え、具体的な場所や時期、さまざまな立場の人々の暮らし、声などに着目する」「中国の物語ほど偉大な歴史ドラマがあるだろうか」
日本の教科書に出てくる有名人や大事件はもちろん、無名人の証言や肉声も多数、紹介される。漢の辺境の砦(とりで)の守備兵の手紙。唐とインドの仏僧のやりとり。明清交代の動乱期に恐怖に襲われた母と娘が交わした文章。安徽省や福建省の農村で、まるで昨日の出来事の…
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週刊エコノミスト
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