EV向けにSiCパワーデバイスの需要が急拡大 各社で増産進む 津村明宏
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電気自動車向けにSiCパワーデバイスの需要が急拡大し、欧米大手をはじめ各社は増産計画を発表。投資競争が激化している。
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SiC(シリコンカーバイド、炭化ケイ素)を用いた半導体の需要が急拡大している。一般的な半導体はシリコンのウエハーを用いて製造されるが、シリコンと炭素の化合物であるSiCはシリコンよりも電力損失が少なく、200度以上の高温でも安定して動作し、高い電圧をかけても壊れないという特性を持つ。こうした特性を生かしたSiCパワーデバイスの需要が電気自動車(EV)向けに急拡大の時を迎えているのだ。
EVにSiCパワーデバイスを搭載する流れを作ったのが米テスラだ。2017年に発売した「モデル3」にSiCパワーデバイスを搭載したインバーター(電力変換器)を採用したことで、これに追随する流れが世界の自動車OEM(相手先ブランドによる製造)に広がり、インバーターに加えてオンボードチャージャー(交流を直流に変換する機器)などにSiCパワーデバイスを搭載する動きが活発化した。これと時を同じくして、半導体デバイスの製造に適した口径6インチ(150ミリメートル)のSiCウエハーが世界的に普及してきたことも、半導体メーカーがSiCパワーデバイスの量産を拡大する契機となった。
大手が大規模増産
SiCウエハー市場で世界シェアの約6割を握り、これを用いたパワーデバイスも生産している米ウルフスピードは、EVにおける採用増加によって、過去1年間でSiCの事業機会は180億ドルから400億ドルへ拡大したと説明。これに伴い、同社のデザインイン(設計・開発の受注)は1年間で98億ドル増加し、EV1台当たりのSiC搭載金額は22年の1055ドルから27年には4986ドルまで増加すると予測している(図)。
こうした需要見通しに対応するため、ウルフスピードは総額65億ドルに及ぶ大規模な増産計画を推進中。ニューヨーク州にSiCデバイスを量産するモホークバレー工場を新設して22年4月に稼働させたほか、本社があるノースカロライナ州ではSiCウエハーの生産も拡大。先ごろ他社に先駆けて8インチ(200ミリメートル)のSiCウエハーを大量生産する新工場の建設計画も立案し、第1期投資に13億ドルを投じて24年の完工を目指す考えを明らかにした。その後10年間で生産能力を10倍以上に増やす方針だ。
他のパワー半導体メーカーも増産の動きを加速している。パワー半導体市場でトップシェアを誇る独インフィニオンテクノロジーズは、マレーシアのクリム工場でSiCとGaN(窒化ガリウム…
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週刊エコノミスト
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