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日銀を政策修正に踏み切らせる「価格転嫁」の波 藤代宏一

 今年は、日銀の政策修正に注目が集まる。政策修正にあたり、その「理由」になり得るのは、企業の価格設定スタンスの変化であろう。特にいま注目されているのは、中小の非製造業の価格設定スタンスが強気化していることである。

 販売価格について「上昇」と答えた割合から「下落」と答えた割合を引いた、販売価格判断DI(日銀短観)が、大企業との格差縮小を伴いながら、大きくプラス圏に突き出ている(図1)。このことは、(財だけでなく)サービスにも価格転嫁の波が広がっていることを意味する。

 筆者が重視するこのDIは1990年代以降、大半の期間マイナス圏で推移し、中小企業の価格交渉力の弱さを象徴してきたが、今次局面において約30年ぶりの高水準に到達している。価格設定スタンスの強気化が財・サービス間のみならず、大企業・中小企業間でも観察され、横断的になっていることは、経済全体として価格転嫁が「常識」になりつつあることを示している。

 問題はその持続性だが、労働市場における需給逼迫(ひっぱく)が構造的色彩を帯びつつあることを踏まえると、過去の(一時的)インフレ局面に比べ、持続性が増している可能性は高い。

労働コストも高止まり

 ここで労働市場に目を向けてみると、従業員などの過剰感を示す雇用人員判断DI(日銀短観)が、バブル崩壊以降で最高レベルの「不足超領域」に達する中、失業率は2.5%と低水準で推移している。同時に労働…

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週刊エコノミスト

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