イチからわかる新旧NISAの使い方 深野康彦
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NISAの正式名称は「少額投資非課税制度」。運用益や売却益に税優遇があるのがメリットだ。
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現行制度は2014年に始まり、これまでも何度か拡充されてきた。政府は昨年12月、さらなる大幅拡充を決め、24年1月に始まる。現行制度と違いが大きいことから、ここでは「新NISA」と呼んで区別しよう。現行制度をすでに使っている人が投資分を新NISAに移行することはできず、新旧制度は全くの別物と考えたほうがいいだろう。
これから説明するメリットを生かして資産を築きたいなら、24年まで待つ必要はない。23年は現行制度を利用して運用し、24年以降は新NISAで運用すれば、最大1920万円分の非課税投資ができる(表1)。
まず、現行制度について説明しよう。株式や投信などが対象の「一般NISA」と、毎月一定額の投信を買う「つみたてNISA」の2種類がある。両者は併用できないことになっており、年間投資枠は前者が120万円、後者は40万円だ(表1)。
NISAを利用するには銀行か証券会社に「NISA口座」を開設する必要がある。銀行で取引できるのは投信だけ、証券会社では投信のほかに株式なども取引できる。1人当たり1口座しか開設できないから、NISAを利用して投信以外の投資もしたい場合は、証券会社に口座を設ける必要がある。
約20%の税金を免除
メリットは運用益や売却益に税金がかからないことだ。一般NISAを利用して100万円の株を買い、数年間保有し、その間に計20万円の配当金を手にしたとする。通常の投資なら20.315%の税金がかかるが、NISAを利用した投資ならかからない。株式を買ってから5年以内に株価が150万円に上がった時点で売れば、売却益の50万円にも税金がかからない。このケースでは約14万円(〈配当20万円+売却益50万円〉×20.315%)得する計算になる(図)。
現行制度は非課税期間に定めがある。一般NISAは5年間、つみたてNISAは20年間だ。だから23年に一般NISAを利用して投資した人は27年まで、つみたてNISAに投資した人は42年までが非課税期間となる。
一般NISAを例にその期間を超えて保有した場合、どうなるかを説明しよう。
100万円の株を買い、5年後に150万円になったとする。非課税期間が終わった時点で、その株式は通常の課税口座に移る。その後、株価が200万円に値上がりした時点で売ったとすれば、もうけは100万円。通常の投資ならもうけの100万円に20.315%の税金(約20万円)がかかるが、現行制度を利用して投資した場合は課税口座に移った時の150万円と売った時の200万円の差、つまり50万円に20.315%の税金(約10万円)がかかる。納める税金が半分で済むのだ。
リターンがなければ損
しかし、買った株式が思った通りに値上がりしないこともあり得る。100万円で買った株式が5年後に70万円に下がったとしよう。そのまま保有し続け、100万円に戻った時点で売ったら、どうなるか。
課税口座に移った時の70万円と売った時の100万円の差、つまり30万円に20.315%の税金(約6万円)がかかる。もうけはないのに約6万円の税金がかかり、損するのだ。現行制度を利用せずに通常の投資をしていれば、売却益はないから税金はかからなかった。現行制度を利用すると、かえって損をするという例だ。
このように「NISAは非課税投資制度だから得」というのは、あくまで評価額が値上がりした場合のことで、値下がりするとかえって損をしてしまう。現行制度はもうかった時だけメリットがある仕組みなのだ。
そのリスクを回避するには、非課税期間の5年以内に値上がりした時点で売る手がある。NISAを利用した投資は保有期間に定めはなく、個別株の場合は買った直後に売ることもできる(投信は1日に1回だけ価格が決まる仕組みなので、最も早くて翌営業日)。非課税のメリットを考えれば、株式投資をする人は利用しなければもったいない制度といえる。
新NISA 無期限に非課税枠を拡大
24年に始まる新NISAの主な拡充点は、以下の通りだ(表2)。
①名称が「一般NISA」は「成長投資枠」、「つみたてNISA」は「つみたて投資枠」に変わる
②非課税期間が無期限になる(従って、先ほど説明した5年後に値下がりした場合に損をするリスクは回避できるようになる)
③年間投資枠が増える
④非課税となる最大投資枠が増える
⑤両者の併用が可能になる
⑥非課税枠の再利用ができる
これとは別に非課税の対象となる金融商品が少し変わる点を付記しておきたい。
そもそも現行制度の一般NISAの場合、対象となる金融商品は国内上場株式、ETF(上場投信)、REIT(不動産投信)、公募株式投信などだ。つみたてNISAの場合は、金融庁が「長期の積み立て・分散投資に適している」と定めた投信となっている。「販売手数料はゼロ(ノーロード)」「信託報酬は一定水準以下」「分配頻度が毎月でないこと」などの要件に合致した投信とETFのことだ(22年12月21日現在、対象商品数は217本)。
かつて人気だった「毎月分配型」の投信は対象外。日経平均株価などの株価指数に連動する「インデックス投信」が大半を占める。ファンドマネジャーが投資の対象やタイミングを選んで運用する「アクティブ投信」は24本にすぎない。
新NISAの成長投資枠は、対象がやや狭くなる。例えば、証券取引所の上場廃止基準に該当して上場廃止が決まった「整理銘柄」は対象外になる。上場廃止日が迫った銘柄の株価は極端に安くなり、投機的な売買の対象になりやすいからだ。また、「日経平均株価が前日比3%値上がりしたら、価格がその2倍の6%上がる」といった動きをするレバレッジ(テコの原理)型のETFも対象外だ。
そもそもNISAは、中長期的に資産形成をする人に税優遇をする仕組みだ。ところが、その制度を使って投機性の高い売買をする人がいる。だから新NISAでは中長期的な資産形成にふさわしくない金融商品を対象外とすることになった。
新NISAを利用すると、1年間に最大で360万円投資できる(成長投資枠240万円、つみたて投資枠120万円の合計)。
どんな金融商…
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週刊エコノミスト
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