教養・歴史書評

新史料を徹底調査、大塩平八郎の乱の真相を解明した労作 今谷明

 大塩平八郎の乱は天保8(1837)年2月に起こった。教科書にも特筆されている江戸後期の大事件であるが、事件はわずか半日程度で終わった。蜂起は大坂市中を焼きつくした火災を残しただけで、幕府への反乱としては失敗に終わった。このため大塩の乱は“単なるテロ”と言う研究者もあったくらいである。

 評者は少年の頃、森鷗外の『大塩平八郎』を読み、乱後、門弟や同志らの大半が自決した中にあって、大塩ひとり市中に生き延びて1カ月のあいだ潜伏していたことを知り、鷗外は平八郎を臆病な人物として描こうとしたと感じた。

 しかし評者はその後、研究者となって大阪市史編さんに関係するようになり、大塩の乱の関連史料が飛躍的に発掘されており、平八郎の逃亡潜伏は、江戸表からの“ある情報”を待っていたためであることが判明した。

 藪田貫著『大塩平八郎の乱 幕府を震撼させた武装蜂起の真相』(中公新書、968円)は、この乱に関する新資料を博捜(はくそう)(広く捜し調べ上げる)し、最新の知見を反映して記された労作である。本書は詳細に乱の全貌と平八郎の思想・学問まで語り尽くしているが、なんといっても中心部は平八郎が蜂起前日に密書を江戸へ急送し、水戸斉昭や老中、学問所総裁の林述斎(じゅっさい)らへの諫言(かんげん)や実情報告が含まれていた事実である。しかし…

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