週刊エコノミスト Online学者が斬る・視点争点

日本文化の非日常性が薄れ、海外進出は転換期に 上原渉

タイ・バンコクのデパートの日本産食品フェア。各地の果物などが販売されていた(2017年11月)筆者撮影
タイ・バンコクのデパートの日本産食品フェア。各地の果物などが販売されていた(2017年11月)筆者撮影

 海外での日本文化が「非日常経験」ではなくなった今、「日本発」の依存だけでは競争に勝てない。

現地文化との「融合」「創発」へ

 アニメや漫画、日本食など、日本の文化的コンテンツが海外で人気になって久しい。

 アニメや漫画の熱心なファンは、キャラクターになりきってコスプレを楽しんだり、話の舞台となった地域を訪れたりすることで、コンテンツに加え、観光業やその周辺市場をも活性化させている。日本食に関していえば、すし、刺し身やラーメンといった人気メニューのみならず、うどんやカツカレー、定食など、さまざまなスタイルが話題だ。日本の文化的コンテンツが、一部の日本好き外国人にとどまらず、複数の海外市場で受け入れられているとされる。

 ただし日本文化から発展した「日本風」コンテンツも生まれ始めてきた。日本企業の海外戦略は新たな視点が必要な段階に入った。

 まず前提として、文化的コンテンツの輸出にあたっては、一般的な製品の輸出とは異なり、文化的背景を共有していない海外の消費者にその内容を伝えることが難しく、実際に経験してもらうことが重要になる。すし、刺し身のように、生魚を食べない文化圏の消費者には抵抗感があるものもあり、それを払拭(ふっしょく)する努力も必要だ。

 こうした文化のギャップを埋める活動は一企業単独では難しい。そのため、いわゆる「クールジャパン戦略」の名の下、政府主導で海外市場への発信がなされてきた。批判も少なからずあるが、少なくともいくつかの日本の文化的コンテンツが海外で受け入れられ、人気を博したことは間違いない。

 日本文化を消費する外国人消費者に目を向けて考えてみると、消費する理由が日本人とは一部異なっていることに気付く。外国文化を初めて消費する際には、もの珍しさや新奇性、話題性を楽しむことが多い。珍しい外国の食材や料理を食べる場合、過去の自分の経験に照らして本当においしいと判断できる場合もあるが、多くは食べ慣れない味や香りに驚き、驚き自体に楽しさを見いだす。

日常的消費に変化

 これは非日常的な特別な経験(extraordinary experience)と呼ばれ、通常の消費経験とは異なる動機で行われる。例えば、刺し身を食べている外国人消費者に筆者がインタビューした際は、「味がしない」「色がきれい」との感想が聞かれ、しょうゆとワサビの味を楽しんでいるように見えるほど、調味料をたくさん使っていた。しかし、そうした消費者でも、刺し身を食べるのをやめるわけではなく、月に数回は日本食レストランに通い、写真をSNS(交流サイト)にアップロードしていた。

 こうした非日常的な消費経験は、特殊な経験自体に意味があり、新たな経験を「収集」することで満足感・幸福感を高めたり、友人・知人と経験を「共有」することで仲間意識を強めたりする効果がある。つまり、日本の文化的コンテンツが珍しい場合には、消費者が所属する文化との差異に注目し、違いを強調することが重要だ。

 こうした状況におけるマーケティングは、日本からのコンテンツだと強調し、その認知を高め、拒絶されない程度の違いを売りにすることで、消費者…

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