経済・企業学者が斬る・視点争点

投資や需要を喚起する企業の「ESG」 馬奈木俊介

 ESG重視の投資人気などもあり、企業におけるESGの重要性が高まっている。

日英などのフェアトレード活況

 企業におけるESG(環境、社会、企業統治)の取り組みの重要性が増している。GSIA(世界持続可能投資連合)によると、ポートフォリオの選択やマネジメントにおいて、ESG要因を考慮するサステナブル投資の世界における総額(2020年)は約4660兆円で、毎年10%程度の成長率を示している。

 一方、ESG重視の流れは、投資金額の増加など企業にとってポジティブな側面だけでなく、規制の増加といった変化ももたらしている。

 例えば、日本では、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード(企業の統治指針)が21年6月に改定され、「サステナビリティー課題への積極的・能動的な対応をより一層進めていくことが重要」と明記された。これにより、実質的に国内上場企業はサステナビリティー課題への対応を強く要求されることとなった。

 特に重視されているのが、サプライチェーン(供給網)を通じたESGの取り組みだ。例えば、欧州委員会(EC)は22年2月に企業のサステナビリティー及びデューデリジェンス(適性評価手続き)指令案を発表し、サステナブルかつ責任ある企業行動を、全世界のバリューチェーンを含む形で促進することを要求しつつある。

人権と生物多様性

 日本においても、22年9月に経済産業省が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定した。世界中で急速に乱立と統合が進む各種規制・ガイドラインでは、温室効果ガス(GHG)のプロトコル、国際サステナビリティー基準審議会(ISSB)公開草案、GHGのプロトコルなどの主要なものは、サプライチェーンを通したESGの取り組みを求めている。

 中でも近年、注目が高まっているのが、人権と生物多様性だ。人権については、前述の通り既に各国で規制・ガイドラインが整備されつつある状況にある。また、実務上の影響においても、21年に、某大手アパレル企業の綿製品が、強制労働で生産された可能性があるとして、米国税関当局が輸入を差し止めた事例もあった。

 環境や労働者の人権問題に配慮した商品やサービスを選ぶ「エシカル(倫理的)消費」といった動きも活発になっている。同消費の需要は世界的に大きくなりつつあり、英国フェアトレード食品・飲料の売り上げは19年比14%増、日本フェアトレード製品市場規模は20年比で21%増えている。

 生物多様性の保全は、21年6月には、主要7カ国首脳会議(G7サミット)でネイチャーポジティブ(30年までに生物多様性の減少傾向を食い止め、回復に向かわせるとする地球規模の目標)が合意された。筆者も、国連報告書グループである「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」の執筆者の一人として、本トピックに深く関わっている。

 世界経済フォーラムによると、全世界で約5808兆円もの規模のビジネスが自然環境に関係するなど、今や両者は密接に関連している。21年6月、G7財務大臣らに承認されたその草稿では、今後「…

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