消費者が電力を「由来」で選ぶ時代 村上佳世
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脱炭素を再生可能エネルギーで目指すなら、消費者はどのくらいの負担増を受け入れるのか。
原子力より再エネを嗜好
東日本大震災と福島第1原発事故の後、私たちは消費している電力の「源」に注目するようになった。世界的な脱炭素化の動きを背景に、その選択はますます重要な課題となっている。大寒波時の価格高騰や地政学リスクの顕在化に直面し、電力の自給を意識する人も増えたかもしれない。いまや電力の消費を「お金と電力の単純な交換」と済ませて語ることはできないのだ。
日本の電源構成の推移は資源エネルギー庁の資料などで確認できる。震災前の2000~10年の平均は火力63%(天然ガス27%、石炭24%、石油12%)、再生可能エネルギー11%、原子力27%だった。震災直後の13年には停止した原子力の発電割合を火力で補い、火力88%(天然ガス43%、石炭30%、石油15%)、再エネ11%、原子力1%となった。火力のうち天然ガスの増加が大きいのは発電時の1キロワット時当たりの二酸化炭素(CO₂)排出量が少ないため、次に石炭が多いのは調達費用が安価かつ安定しているためだ。その後の19年実績をみると、火力76%(天然ガス37%、石炭32%、石油7%)、再エネ18%、原子力6%となっており、固定価格買い取り制度などの推進政策で急伸した再エネと再稼働した原発が、震災後に増大した火力発電の一部を代替したことがわかる。
日本の電源構成はどこへ向かおうとしているのか。政府は21年、エネルギー政策の基本的な方向性を示す基本計画を閣議決定し、関連資料「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」を公表した。資料は「徹底した省エネルギーや非化石エネルギーの拡大を進める上での需給両面における様々な課題の克服を野心的に想定」した場合の見通しであり、いわば目標値だ。これに従えば、30年の電源構成は火力41%(天然ガス20%、石炭19%、石油2%)、再エネ36~38%、原子力20~22%となる。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けて30年時点の温室効果ガス排出量を13年度比46%減とするため、火力の比率を全体の4割まで減らし、減らした分は再エネと原子力で代替するという見通しだ。
原発を減らせば
今から10年前の13年2月、このような電源構成と電気料金に関する消費者の好みを調べるため、筆者は京都大学の依田高典教授(応用経済学)らと共に調査した。「電気料金」「電源構成」「温室効果ガス排出削減量」を組み合わせた2種類の電力契約プランを回答者に提示して好ましいと考えるほうを選ばせた。その後、回答を集計して解析することで、電源構成の違いによって、電気料金の受容性(いくら支払ってもよいと考えるか)がどのように異なるかを分析した。
分析の結果、日本の平均的な消費者は「再エネの電源構成比が1割増えれば電気代が月310円高くても受け入れる」と考える一方で、「原子力の構成比が1割増えるなら、電気代が月720円安くないと釣り合いが取れない」と考えていることがわかった。
この結果を現在に当てはめて試算すると、カーボンニュ…
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週刊エコノミスト
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