資源・エネルギー学者が斬る・視点争点

再エネの普及で広がる再エネ発電の“出力抑制” 杜依濛

2022年は再エネの出力抑制が全国に広がった。徳島県小松島市にある県企業局の和田島太陽光発電所も昨年4月17日と5月4日に抑制対象となった
2022年は再エネの出力抑制が全国に広がった。徳島県小松島市にある県企業局の和田島太陽光発電所も昨年4月17日と5月4日に抑制対象となった

太陽光発電の拡大に「余剰電力の有効活用」が必要とされている。

細かな需給調整の市場整備を

 日本の菅義偉政権は2020年10月、「50年カーボンニュートラル」の実現を目指すと宣言した。50年の脱炭素の目標実現を見据え、30年に向けた具体的な政策対応が定められている。特に、温室効果ガス排出の8割以上を占めるエネルギー分野の取り組みが重要視されている。21年10月に公表された第6次エネルギー基本計画においては、再エネの主力電源化を徹底する方針を示した。30年に再エネ発電量を電源構成の36~38%程度に拡大することを目指している。

 しかし、太陽光発電や風力発電のような、季節や天候によって発電量が変動する自然変動型再エネの導入拡大に伴って、電力の安定供給を維持するため、電力システム上の課題も生じる。特に日本の社会的課題として浮き彫りになったのは、太陽光発電の余剰電力だ。電力会社の大切な役割の一つは、電力システム上で常に供給を需要と一致させることだ。なぜなら、この需要と供給のバランスが崩れてしまうと、周波数に乱れが生じて、最悪の場合は大規模停電が発生する恐れがあるからだ。

九州で頻発

 太陽光の大量導入に伴い、問題となるのは、日射量に大きく左右される太陽光発電の出力ピークが、需要ピークからずれていることだ。日本において太陽光発電システムの発電量は、日射量の最も多い午前11時から午後1時にかけてピークを迎える。一方で、需要のピークは午後5時から午後8時ごろにかけて、夕方の時間帯に発生する。つまり、供給と需要にギャップが生じるのだ。

 従って、電気が必要以上に発電されて余った時に、発電(出力)を一時的に停止(抑制)することが必要となる。これは、需給バランスのための「出力抑制」というものだ。出力抑制される発電所には、電気事業者の「優先給電ルール」として優先順位が定められている。

 優先順位は図のように、まずは出力の変更が比較的容易な火力発電の出力抑制(①)を行う。その後、揚水発電のくみ上げ運転(②)と地域間連系線を活用した他エリアへの送電(③)による需要創出をし、そして、バイオマス発電の出力抑制(④)も行うことができる。①から④の順で調整しても電気が余る場合、再エネ(太陽光・風力発電)の出力抑制(⑤)を実施する。長期固定電源(原子力、地熱、水力発電)の出力抑制(⑥)が技術的に困難であるため、最後に抑制することとされている。

 日本で太陽光発電の導入が先行している九州では、再エネ発電を一時的に止める出力抑制の発生が相次いでいる。日本での再エネの大規模な出力抑制は、18年10月の九州電力管内が最初だった。九電管内では18年から21年まで約250回の再エネの出力抑制が行われてきた。22年の九州の年間再エネ出力抑制率は5.2%にも達した。また、同年4月から、四国、東北、北海道、関西、中国などの大手電力管内でも、再エネの出力抑制が初めて行われた。

 再エネの占める割合が九州と同程度の欧州各国においては、再エネを最大限受け入れるための取り組みとして出力抑制を実施しているが、再エネの出力抑制率をより…

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週刊エコノミスト

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