教養・歴史学者が斬る・視点争点

担い手を育てて都市農業を未来へ 小口広太

市街化区域内農地で存在感が増している生産緑地(東京都調布市で2022年9月)
市街化区域内農地で存在感が増している生産緑地(東京都調布市で2022年9月)

 存在価値が見直されている都市農業。守り、未来につなげるには、どうしたらいいのか。

減少食い止める制度設計の議論を

 1950年代半ばから始まる高度成長期以降、3大都市圏への急速な人口移動が起こった。東京圏への人口集中は現在も続き、総人口の3割近くを占めている。そのような人口や建物などが集中し、都市的土地利用が進んだ地域で営まれている農業が都市農業だ。

バブル期には開発圧力

 68年に制定された「新都市計画法」は、都市計画区域を市街化を図るべき市街化区域と、市街化を抑制すべき市街化調整区域に線引きし、市街化区域内にある農地は「宅地化すべきもの」とした。市街化区域内の農家は、固定資産税の宅地並み課税や高額な相続税という問題に直面したが、相続税納税猶予制度や長期営農継続農地制度の創設によって、一定の条件を満たすことで猶予された。その後、バブル経済期に地価高騰が起こると、都市農地がその原因とされ、開発圧力が強まった。いわゆる「都市農業バッシング」である。

 91年の長期営農継続農地制度の廃止や生産緑地法改正(92年に施行)により、3大都市圏の特定市(東京都23区、横浜市など)では、市街化区域内で農地を保全する「生産緑地」と、従来どおり宅地化を進める「宅地化農地」のどちらかへの選択を迫られた。

 生産緑地の指定を受けないと、農地並みの課税や相続税の納税猶予制度など優遇措置が適用されず、重税の支払いを強いられることになった。それを避ける条件が生産緑地を農地として管理しなければならない営農義務で、「第三者に売れない・貸せない」「アパートやマンションが建てられない」「お金を借りられない(担保にもならない)」という厳しい制約が課せられた。また、その期間は生産緑地の指定から30年、または所有者の終身というものであった。

 ところが、バブル経済が崩壊して低成長期を迎えると、90年代後半以降、食の安全や環境保全、ライフスタイルの見直しなどを背景に、都市農業にも温かいまなざしが向けられるようになった。2015年4月には「都市農業振興基本法」が制定され、都市農地の位置付けは従来の「宅地化すべきもの」から「あるべきもの」へと、その存在意義が見直された。

存在感増す生産緑地

 市街化区域内農地(3大都市圏の特定市)の動向を見ると、92年時点で生産緑地は1万5109ヘクタール(国土交通省調べ)、宅地化農地は3万628ヘクタール(総務省「固定資産の価格等の概要調書」)であった。多くの農家が生産緑地の指定を受けない選択をしたが、一方で指定を受けた農家は厳しい条件を受け入れながらも、農地を守り、農業を継続した。

 現在は、生産緑地が1万1837ヘクタール(21年)、宅地化農地が1万3ヘクタール(20年)である。市街化区域内の農地は半減し、そのうち宅地化農地が3分の1に減少した。生産緑地の占める割合が大きくなり、存在感が増している。

 都市農業振興基本法の制定以降、都市農地に関する法制度も目まぐるしく変化している。17年6月の生産緑地法改正で、生産緑地の面積要件緩和や行為制限の緩和(農産物直売所や農家レストランなど…

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