教養・歴史書評

英国「ストの冬」に考えた社会を変える「突き上げ」の力 ブレイディみかこ

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 今年の英国の冬は「ストライキの冬」と呼ばれている。看護師、救急隊員などの医療従事者、教員、鉄道職員、バス運転手、郵便局職員などの、コロナ禍中に「キーワーカー」と呼ばれて称賛された人々が波状攻撃のようにストを打ち続けている。

 ロックダウン中に地域社会を支えた人たちが、物価高の時代が来ると、今度は庶民の最先端に立ち、「食えないじゃないか、賃金上げろ」と直接行動を行っているのだ。

 素晴らしい政治指導者がいるだけでは社会は変わらない、と『今すぐ格差を是正せよ!』(ベン・フィリップス著、山中達也・深澤光樹訳、ちくま新書、946円)には書かれている。政策立案者には富裕層の利権集団から強い圧力がかかっているので、これを相殺する下からの圧力が要るというのだ。

 例えば、1960年代に米国のジョンソン大統領はキング牧師にこう言ったという。「私は何をすべきかわかっています。しかし、あなたが私にそれを実行に移させなければいけないのです」

 つまり、どんなに立派な理念を持つ政治指導者が誕生したとしても、それが利権集団の利益につながらない場合、相当な強さの圧力がかかる。その圧力をはねのけて政策を通すのは至難の業であり、それを実行させるためには、下側からのプレッシャー(社会運動)で追い風を作ることが必須になるというのだ。

 所得格差拡大がなぜ良くないのか。それはズバリ、経済成長を阻害し、環境問題を悪化させ、社会不信を拡大させ、希望の喪失がファシストに伸長の機会を与えるからだと本書は説く。21世紀を人類がサバイバルするために、一部の富裕層だけでなく、「99%の私たち」のための政治判断が必要なのだ。

 しかし、そのためには、「政治家がダメ」「こんな政策をやってほしい」と、ただお上に任せ、お上を恨んでいるだけではどうにもならない。ボトムアップの突き上げと直接行動。それは政治が正常に機能するための必要条件の…

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週刊エコノミスト

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