『週刊朝日』休刊は新時代の始まりか 永江朗
いまや雑誌の休刊など誰も驚かないが、『週刊朝日』(朝日新聞出版)については特別だった。同誌が5月で休刊するというニュースは、新聞やテレビでも取り上げられた。昨年『サンデー毎日』(毎日新聞出版)とともに創刊100周年を迎えた日本の週刊誌のさきがけであり、ひとつの時代を築いたことは間違いない。
最近の『週刊朝日』は発行部数が7万4000部あまり、実売部数は4万5000部ほどだった。筆者が出版業界に入った1980年代、「週刊誌は莫大(ばくだい)な経費がかかるので、30万部を切ると苦しい」と編集者に教えられた。実売部数を調査するABC公査によると、同誌が10万部を割り込んだのは2014年下期。その後も復調せずに減り続けた。むしろよく我慢したと言いたい。
売れなくなった背景には社会のデジタル化などさまざまな要因があるが、最近ではコロナ禍の影響も大きい。ヌードグラビアやゴシップ記事などと無縁の新聞社系週刊誌は、銀行や診療所のロビー用に定期購読されていた。それがコロナ禍により、感染防止のために設置中止となってしまった。窮状はあきらかだった。筆者は長く同誌で書評を連載してきたが、1月18日に配達日指定で休刊を告げる挨拶(あいさつ)状が届いたときは、「ついにこの日が来たか」と思うだけで驚きはなかった。
ただし、関係者によると、休刊を決めた最大の理由は広告収入の激減だったという。実際、同社は週刊誌『AERA』(アエラ)も発行しているが、こちらのほうが部数が少ないにもかかわらず存続する。同社のニュースサイトが「AERA dot.(アエラドット)」と名づけられ、『AERA』だけでなく『週刊朝日』の記事も掲載されていることが象徴するように、『AERA』のほうがネットと親和性が高く、広告収入が見込めると判断したのだろう。
『週刊朝日』休刊の報を聞いて「うちもやめやすくなった」とある他誌の関係者は漏らした。各社は紙の雑誌へのてこ入れよりも、雑誌のブランドを利用したネットビジネスを模索しているようだ。名門週刊誌の休刊は、ひとつの時代の終わりというよりも、新たな時代の始まりなのかもしれない。
この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。
週刊エコノミスト2023年2月21日号掲載
永江朗の出版業界事情 時代の終わりか始まりか。『週刊朝日』休刊