巨匠・大塚久雄に学ぶ共同体の解体と資本主義 本村凌二
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戦後日本には仰ぎ見るような知の巨匠がいた。政治学の丸山真男、経済学の宇野弘蔵と並び、経済史学の大塚久雄の名はひときわ輝いていた。近代資本主義の発生と発展をめぐって鋭い視角から切りこんでいる。
大塚の主著の一つ『共同体の基礎理論 他六篇』が2021年12月に岩波文庫(1177円)になり、手に取りやすくなったので、若い世代のために紹介しておきたい。
大塚の問題関心の中核には、なぜ西欧においてのみ近代資本主義が生まれ、広く世界中を覆いつくすようになったかがある。同様の問題意識はすでにM・ヴェーバーにも見られたが、大塚のそれはことさら「人間・精神・倫理」といった主体的基盤を一貫して問い続けたところにある。
『共同体の基礎理論』は東京大学大学院社会科学研究科経済史専門課程における講義草案に基づいて、1955年に公刊されている。講義の焦点には、資本主義の発生と発展の過程は、他面から見れば、古い封建制の崩壊の過程であり、その中に「共同体の解体」という重要な一節を含んでいるということがある。
その場合に、著者は前もって「共同体」なるものの本質、成立と解体の諸条件を総体として理論的に見通しておく必要があるという。資本主義社会の見取り図が商品の生産と流通の論理を解明することにあるとすれば、前近代社会の見取り図では「土地の占…
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週刊エコノミスト
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