法務・税務

「所有者不明」土地の大問題 トラブル防ぐための活用必須(編集部)

 土地の共有や登記などに関するルールが今年4月、大きく変わる。土地にまつわるトラブルを防ぐため、法改正の要点を知って活用したい。

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相続登記されていない土地の相続人に法務局が送った通知
相続登記されていない土地の相続人に法務局が送った通知

 東京23区で不動産を複数所有する60代の男性は2021年秋、東京法務局から封書を受け取った。中に入っていたのは「長期間にわたり相続登記等がされていないことの通知(お知らせ)」という文書。法務局が調べたところ、男性が法定相続人の一人と判明した土地があり、長期間にわたって相続登記がされていないとして、男性に必要な登記を申請するよう依頼する内容だ。添付の不動産登記簿には、男性の曽祖父が土地所有者として記載されていた──。

 法務局は今、災害復旧や道路拡幅などの公共事業の予定地となったものの、この男性の例のように長期にわたって相続登記されていない土地について、「長期相続登記等未了土地解消作業」に取り組んでいる。相続登記がされていないと正確な所有者が分からず、仮に複数の相続人で共有していた場合は買収するには相続人全員の同意が必要になる。いつまでたっても公共事業が用地交渉のスタートラインにすら立てない状況を解消しようという狙いだ。

 長期間、相続登記されておらず、登記簿を見ても所有者が分からなかったり、登記されていても所有者が所在不明だったりする土地は「所有者不明土地」と呼ばれる。その利用を円滑化するための特別措置法の施行に伴い、この解消作業が始まったのは18年。きっかけになったのは、11年の東日本大震災だ。津波被災地の集落を高台に移転するため、県が土地を買い上げようとしたところ、所有者がただちに分からず買収に時間がかかるケースが多数にのぼったためだ。

「相続未登記」が6割

 この解消作業として、全国の法務局は自治体などの要望を受け、公共事業予定地にある所有者不明土地の法定相続人を調べて一覧図を作成。法務局が相続人に通知を送って登記を促すことにした。冒頭の男性はその一環で通知を受け取ったことになる。法務省によれば、18〜22年9月末の間、登記土地名義人約7万4000人に通知を送り、そのうち約9000人の登記申請が実現したという。昨年4月からは都市再開発など公共性の高い事業は、民間事業者によるものであっても対象となった。

 国土交通省が昨年、地籍調査(20年度)を基にまとめた結果によれば、調査対象となった全国55万9100筆のうち、「登記簿のみでは所在不明」が13万4249筆と24.0%に達した。所在不明になった要因では「所有権移転の未登記(相続)」がこのうち実に62.6%を占めている。こうした所有者不明土地問題に対し、政府はさまざまな法改正で対処してきたが、その総仕上げとなったのが今年4月施行の民法と不動産登記法の改正だ(一部は来年4月施行)。

 国交省の国土審議会土地政策分科会委員などとして所有者不明土地問題の議論にかかわった慶応義塾大学大学院法務研究科の松尾弘教授(民法)は、「とりわけ民法に関しては共有の法理、所有者が所在不明だったり管理不全だったりする土地・建物の管理制度など、物権法(民法のうち物に対する権利を定めた部分)の基本に絡む改正となっており、規模が大きい。今まで共有物の管理についてあいまいな部分があったが、今回の改正法によりルールが緻密になったのは大きな前進だ」と強調する。

 所有者不明土地問題は、単に公共事業などの用地買収の支障にとどまらない。自分が相続人であることを知らないまま土地の共有が続いていると、別の共有者が勝手に土地を活用したりしかねない。また、その土地が原因となって第三者に損害を与えると、賠償責任を負うことにもなる。相続登記を放置して共有関係を整理しなければ、さらなる相続によって共有者の数が膨れ上がり、共有者の合意形成が一段と難しくなる。誰にでも襲い掛かる所有者不明土地問題。今回の法改正の要点を知り、トラブルを防ぐためなどに活用したい。

(谷道健太・編集部)


週刊エコノミスト2023年3月7日号掲載

相続&登記法改正 「所有者不明」土地の大問題 トラブル防ぐための活用必須=谷道健太

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