国際・政治 南米
ブラジルとアルゼンチンが国際決済での“脱米ドル”を探る事情 対木さおり
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米ドルに依存しない貿易決済手段の検討に南米が動き出した。ドルを基軸通貨とする国際金融市場の不安定さを認識する新興国は少なくない。
“共通通貨”を模索するも、ハードルは高すぎる
ブラジルのルラ大統領とアルゼンチンのフェルナンデス大統領は1月23日、ブラジル・レアルとアルゼンチン・ペソとの間での共通通貨に関する議論を開始することを決定した。現時点では、この構想は実現までのハードルが相当高いと考えられる。ただ、この共通通貨の議論の背景やメリット・デメリットを検討することは、新興国の置かれた状況を理解することにつながると考えられる。
まず、2022年に新興国は米ドルの動きに振り回されることになった。ロシアのウクライナ侵攻やグローバルなインフレ、さらに欧米の数次の利上げにより、新興国の多くは対米ドルで急激な通貨安に見舞われ、介入や利上げでの対応を余儀なくされた。ブラジルやアルゼンチンに限らず、ドルを基軸通貨とする国際金融市場の不安定さを再認識した新興国は少なくない。
また、昨年春以降の金融制裁により、ロシア・ルーブルとの決済取引が米ドルを介する形では困難となり、中国人民元や、インド・ルピーとの間で米ドルを介さず決済する仕組みも着々と検討されている。このような中、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の一員であるブラジルが主導し、米ドル依存からの脱却を模索する選択肢として、共通通貨が俎上(そじょう)に上がったわけである。
非ドルで貿易決済に
では、具体的に、両国が想定する「共通通貨」とはどのようなものか。
第一に、今回の共通通貨は、EU(欧州連合)の共通通貨であるユーロのような計画ではない。この通貨は、市中で流通する通貨ではなく、「金融および商業貿易に使用され、運用コストを削減し、ドルに対する対外的な脆弱(ぜいじゃく)性を低下させる」ものとされている。両国の財務相も、自国通貨に代わるものではなく、「共通の支払い手段」を考えていることを明らかにしている。今後、当局者によるワーキンググループは、ドルに依存せずに貿易取引の決済に使用できる共通の手段として、そのベースとなる「共通単位」に関する議論を開始する模様だ。
第二に、「共通単位」のイメージとしては、ユーロの導入前に使われていた欧州通貨単位(ECU)のようなものが近いと考えられる。ECUは、1979年に欧州通貨制度(EMS)の発足に伴って導入されたもので、参加国の通貨の加重平均を取った通貨単位、すなわちバスケット単位となっていた。この単位は、市中で流通はせず、法定通貨でもなく、主に中央銀行間の決済、介入・信用メカニズムの計算単位、各種の基準として活用されていた。
また今回、デジタル通貨のような形式が検討されている模様であり、交換単位はデジタル方式で、一定の法則で規則的に見直すことができる可能性もある。例えば、現存する制度としては、数年に一度、加重平均比率が見直される国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)に類似した仕組みとなるかもしれない。
では、なぜブラジルがこの議論を主導するのであろうか。この共通単位は…
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週刊エコノミスト
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