気候変動対策の新課題「公正な移行」が米国世論を複雑化 鈴木洋之
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気候変動を巡り、2022年は脱炭素とエネルギー安全保障を巡る「ジレンマ」に悩む年となったが、23年は脆弱(ぜいじゃく)な国・地域や社会を保護する「公正な移行(Just Transition)」も含めた「トリレンマ(三律背反)」が課題となる見通しだ。公正な移行とは、すべてのステークホルダー(利害関係者)にとって公正かつ平等な方法によって持続可能な社会への移行を目指す概念だ。
グローバル経済は、新型コロナウイルス禍で露呈したサプライチェーン(供給網)の分断や、ロシアのウクライナ侵攻で加速したインフレ、主要先進国の金融引き締め政策により情勢が悪化し、途上国の債務問題の懸念も高まっている。先進国と途上国の溝も深まり、両者の緊張関係は、気候変動政策の国際議論にも影響を与えている。昨年11月にエジプトで開催された国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で、気候災害で打撃を受けた脆弱な国々に、「損失と損害」のコストを支払うための資金を提供する基金設立に合意したのは記憶に新しい。
日本を含むG7(主要7カ国)各国は、インドネシア、ベトナムなどで石炭から再生可能エネルギーへの移行に向けた取り組みなどを支援する「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」を加速させており、岸田文雄政権もアジア地域全体の脱炭素化を目指す「アジア・ゼロエミッション共同体構想」を発表しているが、いずれも具体的な実行力が試される。
「ESG偏重」批判も
他方、公正な移行については、米国内の議論も要注目だ。昨年8月に成立した米国のインフレ抑制法では、低所得者層やエネルギー資源が枯渇しつつある地域を「エネルギーコミュニティー」と規定し、そこで開発された再生可能エネルギーには追加の税控除を認めるなど、公正な移行を後押しする仕組みが盛り込まれている。
米国内では、インフレ抑制法で決まった脱炭素の取り組みを…
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週刊エコノミスト
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