マーケット・金融

金融緩和修正で続くJリートの下振れリスク 岩佐浩人

長期金利の上昇は不動産投資に大きな影響を及ぼす Bloomberg
長期金利の上昇は不動産投資に大きな影響を及ぼす Bloomberg

 金利先高観が広がる中、日本株を大きく下回り始めたJリート。日銀新総裁の下、Jリートの投資家にとって頭を悩ます状況が続きそうだ。

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 Jリート(不動産投資信託)市場は2022年12月以降、金利の先高観を背景に下値を探る展開となっている。

 日銀は22年12月20日の金融政策決定会合において「長短金利操作(YCC=イールドカーブ・コントロール)」の許容変動幅をプラスマイナス0.50%へ拡大し、10年国債利回りの上昇を容認した。4月からは植田和男新総裁の下で、現在の大規模緩和の見直しが想定され、Jリート市場では適正な利回り水準を巡り投資口価格(株価に相当)の強弱感が対立している。

 東証REIT指数とTOPIX(東証株価指数)について、12月19日を基準に両者を比較すると、YCC修正前まではほぼ連動した値動きであったが、その後のパフォーマンスは大きな格差が生じている(図1)。株式市場が従前の水準を回復したのに対し、Jリート市場は昨年来安値を更新し株式市場を約8%下回る(1月末時点)。

 投資家の多くは、日銀の次の一手に備えて金利上昇の影響を見極めようと、様子見姿勢を強めているようだ。22年のJリート市場の動向を振り返るとともに、金融緩和修正が同市場に及ぼす影響を分析する。

Jリート物件取得は不振

 22年の市場環境をワンフレーズにまとめるなら、「厳しさを増す海外市場 vs. 堅牢(けんろう)に守られた国内市場」と表現できるかもしれない。海外ではインフレ高進に伴う金融引き締めやロシアのウクライナ侵攻、中国のゼロコロナ政策など悪材料が相次いで投資家心理が悪化。米国では10年国債金利が1.5%から3.8%に上昇し、株式(S&P500)は19%下落するなどマーケットの景色は一変した。

 一方、国内市場は海外と一線を画す動きとなった。海外のパーフェクトストーム(最悪の嵐)に対して、国内は日銀の大規模緩和という「堅牢」に守られて、(12月19日までは)相対的に穏やかな1年だったといえる。東証REIT指数の下落率は配当除きで8.3%、配当込みで4.8%となった(表)

 市場規模をみると、上場銘柄数は61社で変わらず、時価総額は15.8兆円(前年比7%減)に減少、運用資産額(取得額ベース)は21.9兆円(前年比3%増)で、規模の拡大は一服となった。また、Jリートによる物件取得額は8783億円(前年比45%減)となり、アベノミクス効果で市場が本格回復した13年以降では最も少なく、10年ぶりに1兆円を下回った。投資口価格の低迷でエクイティコストが上昇する一方、不動産価格が高値圏にあるなか、Jリート各社は総じて物件取得に慎重であったといえる。

 これに対して市場ファンダメンタルズは、市場全体の予想1口当たり分配金が前年比2%増、1口当たりNAV(Net Asset Value、純資産総額)は5%増と改善が続く。この結果、12月末時点のバリュエーションは、分配金利回りが3.9%、10年国債利回りに対するイールドスプレッドが3.5%、NAV倍率が0.96倍となった。分配金やNAVが底堅く推移するなか、利回り面ではおおむね適正水準に、NAV倍率では割安な水準にある。

投資家は忍耐の時

 最後に、緩和政策修正の影響について確認したい。金利上昇は次の三つのルートを通じて、Jリート市場にマイナスの影響を及ぼすと考えられる。具体的には、①借入金利上昇による「分配金減少」、②不動産利回り上昇による「NAV下落」、③分配金利回り上昇による「投資口価格下落」である。図2では、借入金利・不動産利回り・分配金利回りが現時点より0.1%上昇した場合の、Jリート市場への影響(マイナス1.6%~マイナス3.8%)を試算した。このうち、いち早く顕在化する項目は、③「投資口価格下落」である。実際、分配金利回りは金利上昇リスクを織り込んで、既にYCC修正前の3.8%から4.1%に上昇している。

 Jリート市場はNAV倍率が1倍を下回り割安感が強いものの、今後の金融政策のかじ取りについて見通しにくい状況にある。当面の間、投資家としても忍耐を強いられることになりそうだ。

(岩佐浩人・ニッセイ基礎研究所 不動産調査室長)


週刊エコノミスト2023年3月14日号掲載

不動産市場の変調 金融政策修正で揺れるJリート まだ続く下振れリスク=岩佐浩人

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