経済・企業

ホンハイがEV事業で新境地 ニデック関氏を登用しスマホ型分業を導入 湯進

独自開発のEV「モデルC」の試作車を披露する鴻海グループ創業者のテリー・ゴー氏(2022年10月、台北市)Bloomberg
独自開発のEV「モデルC」の試作車を披露する鴻海グループ創業者のテリー・ゴー氏(2022年10月、台北市)Bloomberg

 電気自動車(EV)事業に乗り出した台湾の鴻海(ホンハイ)には日本の100社以上が協力。その開発と製造の仕組みが革命的だ。

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 米中欧日のグローバル企業を巻き込んで進む世界の電気自動車(EV)シフトのなかで、台風の目となるポテンシャルを持つ製造受託企業が現れた。スマホ世界最大のEMS(電子製品受託製造)である台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業だ。

 ホンハイは2023年2月1日、日本電産(4月1日よりニデック)前社長の関潤氏をEV事業の最高戦略責任者に任命した。日産自動車で33年の経験を持ち、自動車サプライチェーン(供給網)に精通する関氏の専門性を生かし、EV事業のグローバル戦略を加速しようとしている。その戦略は、スマホ製造で培われた世界のサプライチェーンを徹底的に活用する極めて緻密なオープン・プラットフォーム戦略といえるだろう。

 23年2月20日はホンハイ設立49周年となった。米アップルや米HPなど世界大手ブランドのスマホやパソコンの製造を受託するホンハイは、中国で安価な労働力の大量投入や、厳しいサプライチェーンの管理を通じて、約半世紀で100万人規模のグローバル企業に成長した。これまでEMS企業として低い利益率に甘んじてきた巨大企業が、EV事業で新境地を切り開こうとしている。

日本の100社が参加

 同社は、25年に世界のEVで5%のシェアを獲得する一方、25〜27年に世界でEV300万台分の部品・サービスも提供する。その強気の背景には、モジュール化生産を得意とするホンハイが、水平分業による低価格EVの大規模生産を一気に拡大させ、グローバル市場に供給網の基盤をすでに構築していることがある。

 なかでも、20年10月に本格始動させたEVのハード・ソフトウエアのオープン・プラットフォーム「MIH」から、同社の本気度がうかがえる(表1)。

 MIHの特徴は、製品のモジュール化により、多様なモデルに柔軟に対応できる点だ。さらに外装とボディーフレームが一体化した軽量シャシー構造となっており、演算能力の高い中央集中型の電気・電子(E/E)アーキテクチャー(エンジン制御ユニットやセンサー、アクチュエーターなどをつないだ大きなシステム構造)、自動運転システムも備えていることだ。そのコア技術は、EVメーカーやEV開発企業向けツール「EV Kit」である。車両の基本仕様や自動運転アーキテクチャーを設定すれば、参照設計としてアプリケーションとユーザーインターフェースを提供でき、MIH会員企業の仕様に沿った部品・システムを提供する形となっている。

 つまりEV市場に参入する企業がモジュール化と高度なカスタマイズ性を通じて自由に車両構造や規格を選べる一方、その代わりに、生産はホンハイが全て引き受ける、という仕組みだ。

 特筆すべきは、MIHでホンハイは「自動運転」「スマートコックピット」「車台構造」「熱管理」など12のワーキンググループを設けていることだ。会員企業数は23年2月末時点で2596社に上り、自動車部品、電機・電子部品、ソフトウエアなど多分野にわたる。ユニークなのは、無料会員は限定された情報の取得のみとなるが、年会費1万ドル(約135万円)の有料会員となれば、分野別のワーキンググループに参加でき、新技術の開発に取り組むことも可能になる点だ。

 アップルの生産受託実績があるだけに、ホンハイMIHはグローバル企業から高い関心を寄せられている。電池世界最大手の中国CATL、車載半導体大手の独インフィニオンテクノロジーズ、クラウド大手のアマゾン・ウェブ・サービスなど大手が名乗りを上げ、日本からはモーター大手の日本電産をはじめ、熱管理ワーキンググループを主導するデンソーなど約100社が参加する(表2)。

 系列を超えて得意技術を持つ多くの日本企業がMIHを通じて、新事業の拡大を図ろうとする意図が見て取れる。

 ホンハイのEV事業はグーグルがスマホメーカーに無償で提供した基本ソフト「アンドロイド」のビジネスをイメージし、開発と生産の分業が進むスマホ型のビジネスモデルをEV業界に持ち込み、後発企業でもMIHをベースにEV開発ができることだ。

 会員企業間での水平分業を通じ、EV開発全体の約8割をカバーできる仕組みは、従来の自動車製造と一線を画し、「EVの設計時間を半分に、開発コストを3分の1」(ホンハイ)に削減する。開発負担減がメーカーの参入を後押しし、EVの普及も一気に加速すると予測される。

「アップルカー」の候補

 一方、会員企業に収益をもたらすにはグローバルでEV事業の提携先を増やす必要がある。特に国別の産業保護政策が存在するなか、スマホのように特定地域で生産し、グローバルで自由に販売することは簡単ではない。しかし、自動車メーカーがEVを現地生産すれ…

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週刊エコノミスト

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