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インド出身のバンガ氏を世銀次期総裁に指名したバイデン政権の三つの期待 岩田太郎
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バイデン米大統領は2月23日、世界銀行の次期総裁候補に米決済大手マスターカードの前最高経営責任者(CEO)アジェイ・バンガ氏を指名した。任期途中での退任を発表したデイビッド・マルパス総裁の後任として6月末までに就任する見込みだ。
貧困国の経済強化を使命とする世銀は第二次世界大戦後に設立されて以来、最大の出資国である米国が歴代総裁を指名してきた。バンガ氏はインド出身で、初の途上国出身の総裁となる。
米メディアが報じるバイデン政権のバンガ氏指名の狙いは大きく三つある。まず、大胆な辣腕(らつわん)経営者として知られるバンガ氏をして、「時代遅れで融通が利かない」と評される世銀の構造改革を断行すること。次に、途上国出身でグローバルサウス(新興・発展途上国)の指導者たちからの信頼が厚いバンガ氏の理解や共感を通して、中国やロシアと国際社会でせめぎ合う米国側に多くの途上国を取り込むこと。そして地球温暖化問題への取り組みに積極的なバンガ氏が承認する環境プロジェクトへの融資で、世界規模のエネルギー大転換を米国が主導できるようにすることだ。
高い能力に期待
バンガ次期総裁候補は現在63歳。子供時代は転勤の多い軍高官の子息としてインド各地を転居し、「適応力と、順応する意思が養われた」と米『ニューヨーク・タイムズ』紙に語っている。
インドの首都ニューデリーのデリー大学で経済学を専攻し、インド経営大学院に進んで経営学修士号を取得した。1981年に食品大手ネスレに入社、94年に食品大手ペプシコに転職し、96年に金融大手シティ銀行に入行した。2000年に米国に移住し、07年に米国市民権を取得して帰化。09年にマスターカードに最高執行責任者(COO)として引き抜かれるという、グローバルなキャリアを持つ。
バンガ氏の人物評は好意的なものが多い。知人らは、「謙虚で話しかけやすい」「人の話を傾聴する」「温かい」などと高評価を与える。普段の生活ではシーク教徒向けの音楽番組をラジオで聴くほか、ロック歌手のエルビス・プレスリーからレディー・ガガまで趣味が幅広いという。
また、オバマ政権でサイバーセキュリティー強化担当の諮問委員を務め、インド系のハリス副大統領とも親交が深いなど民主党寄りだが、その組織運営力は共和党支持者からも信頼されており、米議会の承認が確実視される。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのニコラス・スターン教授は、「バンガ氏の指揮の下、マスターカードは他のグローバル企業に先駆けて炭素排出量ゼロの目標を掲げ、科学的手法でそれを達成する道を歩んできた」と評価する。
米ニュースサイトのアクシオ…
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週刊エコノミスト
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