人権や教育を含む人的資本の軽視が企業価値を損なう 馬奈木俊介
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気候変動対策で普及が進むEVだが、電池に使われるレアメタル採掘で児童労働が問題視されている。
EV普及は脱炭素と児童労働助長を生む現実
ESG(環境、社会、企業統治)を重視したESG投資(サステナブル投資)への注目が高まっている。関心の高まりを受け、企業は販売する製品の材料や品質だけでなく、それを得るためのサプライチェーン(供給網)に対する配慮も求められるようになっている。例えば、環境に配慮した製品を作ったとしても、製品の材料を得る方法が、社会規範やガバナンスに照らして適切だったか、ということまで問われる。
ESG投資の重要な判断要素が人的資本だ。人材の能力や知識を「資本」とみなす人的資本については、2021年に東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コード(企業統治の指針)を改定し、上場企業には情報開示が迫られるようになった。これまでは非財務資本としてあまり注目されなかった人的資本だが、今後は人的資本の軽視は企業への信頼を失い、非常に大きな損失をもたらすことにつながる。
1997年に発覚した米大手アパレル企業の強制労働・児童労働問題では、委託先のインドネシアやベトナムの工場での長時間労働や児童労働が発覚し、世界的な不買運動が起こり、損失は1兆4000億円にも上った。13年にはバングラデシュで、世界のアパレルからの下請け工場が複数入った違法建築ビルが崩壊し、1100人を超える死者を出した。人的資本を軽視して起こった最悪なケースといえるだろう。
国連児童基金(ユニセフ)と国際労働機関(ILO)では、5~17歳が林業や鉱業、機械整備など特定の危険な産業や職業への従事や週43時間以上の長時間労働を行うことを児童労働と定めている。児童労働は過去の話ではない。
ユニセフとILOが21年に発表した報告書では、世界中で児童労働に従事している子どもの数が、20年初頭には推定1億6000万人(女子6300万人、男子9700万人)に上るという。さらに、児童労働に従事する5~11歳の子どもの数は、総数の半分以上の8930万人を占めるとされる。
農業やレアメタル採掘で
同報告書によると、最も児童労働が多いとされるのが農業だという。身近な例では、チョコレートの原料となるカカオの収穫や加工で問題となっている。農園で働く子どもたちの中には、学校に通えないばかりか、人身売買されてきた子どもの存在もあるという。児童労働は、将来の人的資本としても多大な損失となるばかりか、人道的にも大きな問題だ。
国際組織「国際フェアトレードラベル機構」は、生産者への適正価格、労働者への適切な労働環境や人権配慮などを求める「国際フェアトレード基準」として、経済、社会、環境の三つの視点から取引の基準を定めており、フェアトレード最低価格の保証や安全な児童労働・強制労働の禁止などが原則とされている。
化石燃料の消費を抑えるための一つの解決策として急速に拡大している電気自動車(EV)に関連しても、児童労働、強制労働が問題になっている。EVを巡っては、16年のノルウェーを皮切りに、スウェーデン、オランダ、ドイツ、フラン…
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週刊エコノミスト
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