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日本「インバウンド復活」の難路 活路は個人客誘致 酒井元実

コロナ禍前の訪日外国人客のにぎわいを取り戻せるか(2022年10月撮影)
コロナ禍前の訪日外国人客のにぎわいを取り戻せるか(2022年10月撮影)

 コロナ明け特需を狙い各国が観光を強化していた中、出遅れた感のある日本。中国の旅行客も戻らない中、自国の魅力や受け入れ姿勢を見直す必要がある。

人手不足と人材難で揺らぐ“おもてなし”

 新型コロナウイルス禍で日本は約2年半余りの間、世界でもまれな「外国人への入国制限」という水際対策を継続していた。諸外国から“ネオ鎖国”と揶揄(やゆ)されるなど批判も受け、2022年10月にようやく日本への入国にあたっての制限を緩和。遅ればせながらインバウンド(訪日観光客)需要復活への道が開かれることとなった。

 しかし、欧米などでは1年半~2年前にすでに海外旅行を解禁しており、コロナ明けの“リベンジ消費”(消費自粛後の反動増)や旅行の需要をすでに他の国で満たしてしまっていた。つまり、需要はすでに一巡、日本は好機を取り逃がした形だ。コロナ禍からすでに復活した国も存在する一方、日本の22年通年訪問客数は19年比で約90%減と出遅れが目立つ(図)。

 観光関連の取材などでコロナ禍にも欧州を中心に国境を越える旅を何十回と繰り返した筆者の経験を通じ、世界において日本の旅行市場はどう見られているか指摘したい。

日本観光の“残念ぶり” 門限付きの国際空港 英語が無理な地方

 世界の旅行業界は、コロナ禍で地域を問わず大打撃を被った。国境をまたぐ旅はもとより、各国の国内でも移動制限がかかり、レジャー目的でどこかへ行くという旅行需要はほぼゼロにまで消滅した。もともと業界は非正規雇用者により支えられてきた背景もあり、人材も霧散。コロナの感染拡大が一段落し、各国でアフターコロナの反動需要が高まる中、旅行関連をはじめとするサービス業においては深刻な人手不足に陥った。

 ただし、需要が旺盛だったこともあり、米国などでは賃金を上げ人材不足の解消を目指した。一方、賃金を上げることが難しい日本では、業界経験者を適正な賃金で確保できないという状況が発生した。結果として高級ホテルでもサービス水準が低下し、客離れが起きているのが現状だ。インバウンドの観点でいえば、業界経験者、特に外国人観光客に対応できる人材の確保はさらに難しくなった。

 筆者は欧州から日本行き業務渡航の相談を受けることがあるが、ことに地方では「確実に英語が通じるホテル」を選ぼうとしても、期待する結果にはなかなか結びつかない。日本自慢の「おもてなし」の体制は揺らぎつつある。

 日本の「残念ぶり」が海外で発信されるニュースがあった。クリスマス直前の昨年12月23日、成田空港での出来事だ。午後10時半にドバイへ向け出発予定だったエミレーツ航空(UAE=アラブ首長国連邦)のフライトが、機体修理のため遅延した。修理を無事に終え、一旦はゲートから離れ、滑走路に向かったものの、離着陸は午前0時までとする“成田の門限”に引っ掛かり、離陸できなくなってしまったのだ。

 24日未明になってようやく乗客らは機外へと出たのだが、用意されたのは水とスナック、そしてホテル提供の代わりに出てきたダンボール箱だった。成田はそもそも24時間運用ではないので、深夜に出入国手続きをすることはできない。ホテルを確保したとしても再入国は不可だ。もちろん空港内に開いてる店もなく、乗客らは途方に暮れたという。

 この件は英国など英語圏のニュースでは「日本の国際空港での対応はおざなり」という文脈で報道され、ハブ空港としてのしかるべき対応ができないことが露呈する格好となってしまった。他のアジアの主要ハブ空港は、離着陸時間の制限があるものの、シンガポール・チャンギ空港、スワンナプーム国際空港(タイ)などは24時間食事が可能で、旅客の出入国手続きもできる条件を整えている。24時間運用の羽田空港でも、出国手続き後のエリアは深夜になると自動販売機程度しか使えない。そうした現状を比べると、日本の空港は利便性の面でアジアの主要ハブ空港の中でも見劣りする(表)。

 各国はコロナ明けの需要を狙い、観光客受け入れ態勢や振興などに向けた予算を確保、計画を練ってきた。日本の「観光庁関係予算決定概要」(23年度)という公開資…

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