“成長幻想”引きずる中国 過去12年間の固定資産投資1.3京円 津上俊哉
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高成長を追い、膨大な借金で投資を続けたツケを、中国経済は払うことになる。
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「中国の高成長は2030年ごろまで続く」……今は荒唐無稽(むけい)に聞こえるが、10年ほど前までは、中国だけでなく世界中がそう信じていた。たしかに01年世界貿易機関(WTO)加盟後の10年は黄金期だった。世界中から殺到した外資企業が資本、技術、マネジメントを持ち込んだ。1億人以上の貧しい農民が沿海部で工場労働者に変身した。輸出が激増、09年には世界一になった。高速道路、コンテナ港など優良インフラが続々整備された。
しかし夢のような時期は10年代には過ぎ去った。世界第2位になった中国経済が2桁以上の成長をいつまでも続けられるはずはない。ところが中国は高成長持続の幻想から抜けられず、成長が低下する度に投資のアクセルを繰り返し踏んだ。産業の設備投資、不動産投資、政府の公共投資などを合算した「固定資産投資」を10年から22年分まで累計すると654兆元(約1京2500兆円相当)で、大半を有利子負債で賄ってきた。
図1の棒グラフは総債務(企業、政府、家計の債務の合計)のGDP比を表す。効果の乏しい投資をすると、そのためにした借金の返済に時間がかかる。中国は景気減速の度にそんな投資を重ねたので、負債残高が急増したのだ。
借金頼みから脱却できず
10年前に登場した習近平政権は当初、投資と借金頼みの成長パターンからの脱却を目指した。就任早々GDP成長ばかりを重視する風潮を批判し、「新常態(成長が低下していく新しいノーマルに慣れよう)」を標語に掲げた。
しかし、14年から始めた「新常態」は16年にまた投資アクセルが踏まれて最初の挫折、17年から始めた「デレバレッジ(債務圧縮)」はコロナ後の20年の景気回復策で2度目の挫折を経験した。10年前に比べGDPは2倍になったが、負債総額は3倍、不動産価格は全国で1.5倍、北京にいたっては3倍と状況はかえって悪化した。
さらに20年にコロナ後の景気回復策に伴い不動産バブルが再燃したことを重く見た政府が、デベロッパーの資金調達を締め上げたことが裏目に出た。デベロッパーの経営危機が買い控えを誘い、22年の住宅販売は前年比マイナス27%、新規着工はマイナス40%、土地の仕入れはマイナス53%と惨憺(さんたん)たる状況で、「不動産繁栄の時代は終わった」との見方が強まった。
不動産はGDP成長の4分の1を担ってきたとされるだけに、前例のない不動産不況は景気を大きく落ち込ませる。22年は、この落ち込みだけでGDP成長率を3%前後押し下げた上、ゼロコロナ政策で消費や経済活動が更に落ち込んだ。習近平政権はこの落ち込みを埋めるために2兆6400億元の減税、地方政府のインフラ地方債発行枠4兆元、政策銀行による地方政府向け貸出枠8000億元、社会保険料の徴収猶予3200億元など、大規模な景気下支え策を講じた。財政から実体経済への資金投入はGDPの9%に及んだ(減税分を含む)。おかげで「通年成長率は3.0%まで回復した」とするが、投資と借金頼みから…
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週刊エコノミスト
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