中東は“脱炭素”商機に世界の再エネ輸出拠点を目指す 土屋一樹
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アラブ世界は石油・天然ガス資源に固執していない。脱炭素を千載一遇の機会と捉えている。
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中東は世界の原油埋蔵量の約5割、天然ガス埋蔵量の約4割が存在し、その多くは他地域よりも低コストで産出できるため、需要がある限り、石油輸出を続けることができるだろう。一方で、主要石油輸出国である湾岸アラブ諸国は脱石油依存を標ぼうしてきたが、それは石油の枯渇を心配しているからではなく、石油価格の不安定性が社会と経済に有害な影響を与える「石油の呪い」を回避するためだ。石油収入に依存する国は、石油部門以外の産業の発展が阻害され、持続的な経済成長が果たせず、また紛争が発生しやすい。
2020年以降、世界的な脱炭素の動きが加速するなか、湾岸アラブ諸国は、その潮流を好機と捉えている。脱炭素は石油依存の脱却とクリーンエネルギーなど新産業の発展を同時にもたらす千載一遇の機会だからだ。
湾岸アラブ諸国は、以前から石油依存の脱却を模索してきたが、依然として石油から多くの富を得ている(表1)。石油のレント(不労所得=富)は、充実したインフラや社会保障をもたらした一方、非石油産業が発展せず、人口増加に伴い失業問題を引き起こした。その対策として、各国政府は、外国企業の誘致や企業に自国民の雇用を促す制度を導入している。他方で、人口増と都市開発は、国内の石油消費を大幅に増加させ、その結果、00年代末までには石油輸出余力の減少が懸念されるようになった。このため、各国はガソリンなど国内石油価格を引き上げ、天然ガスによる発電や再生可能エネルギー(再エネ)の導入といった対策を打ち出したが、これにより、湾岸アラブ諸国のガソリン小売価格は国際石油価格にリンクするようになった。現在のサウジアラビアやアラブ首長国連邦のガソリン価格は、石油輸入国のエジプトやチュニジアと同等以上になっている(表2)。
再エネの発電プロジェクト
さらに、多くの国で再エネによる発電プロジェクトが続出している。その先駆者となったアラブ首長国連邦では、06年に二酸化炭素(CO₂)排出量ゼロを掲げる実験都市「マスダール・シティー」の建設を開始したほか、国内外で再エネ発電事業を活発化。サウジアラビアも30年までに再エネ発電比率を50%とする計画を策定し、大規模な太陽光・風力発電プロジェクトを次々と打ち出している。過去10年で再エネのコストが大きく減少したことで、湾岸アラブ諸国でも再エネが石油に代わる主要電源になると期待されている。
脱炭素の潮流は、湾岸アラブ諸国にとって、国際的な商機でもある。すなわちクリーンエネルギーの拠点構築と輸出だ。当初、再エネ発電は国内消費への対応を想定したものだったが、クリーンエネルギーも貿易財となる可能性が高い。特に水素やアンモニアとして流通し、短期的には天然ガスなどから生産される「ブルー水素(アンモニア)」、中長期的には再エネにより生産される「グリーン水素(アンモニア)」などが、有力な輸出品として期待されている。前者、後者いずれの生産方法でも、湾岸アラブ諸国は強い国際競争力を持つ…
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